走る
シヨゥ
第1話
なににもしばられない彼は常に先を走っていた。彼が切り拓いた道をぼくらが踏み固めて道をつくっていく。
僕らのあとに続く世代は、地ならしをした僕らを先駆者と見るだろう。それを僕らは悲しいかな否定しなければならない。僕らなりの苦労もある。だが彼の苦労からしたら屁でもない。だから否定しなければならない。
傷つきながら常に先を走る彼なしに僕らはこの道はないからだ。
一度だけ傷つき立ちどまった彼に追いついたことがある。
僕らは伴走したいと願い出た。傷を分かち合い、心を通わせ、共に闘おうと訴えた。
しかし彼の首は縦に振られることはなかった。「ありがとう」とポツリと呟き彼は走り出す。
悔しいかな追いすがることはできなかった。なぜなら僕らは足も上がらないほどに疲れていたからだ。
休憩を終え、僕らは走り続けていた。彼の姿は行けども行けども見えてきやしない。そしてふと気づく。いつの間にやら僕らが道を切り拓いているのだ。それが示すもの。それは僕らの先に彼はいないということだ。
彼がもういない。その事実が重くのしかかる。いままでは彼が残した足跡に沿って走ればよかったのだ。それがもうない。足が止まりそうになる。しかし止まってはいけないことに僕らはすでに気づいていた。
彼の代わりに僕らがやらねばならない。あとの続く世代のために走り続けなければならない。あとの世代任せなんてのんきなことは言ってられない。それじゃあ立つ瀬がない。
ぼくらは走る。彼の代わりに走る。きっと走り続けられなくなるその時まで走り続けるだ。
走る シヨゥ @Shiyoxu
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