オマケ~伏見さんはご立腹中?~


 そうそう、ヴァンパイアの秘伝。精気を奪うワザを教わる。さあ、これから……というところで、先生が捕まりました。


 ――一体、何をしたのか?


 同種族同士の噂話で回ってきたこと。

 うちの育ちのいい母親が憤慨していたので、種族の禁句にでも触ったのか。ともかく、僕かその先生……その人物に秘伝のワザを教わろうとしていたことは、バレていないようです。


 あと、何か言い忘れていることはあるかな?


 ああ……キャンプで遭遇した巨大イノシシは一体何なのか。


 お盆にやった妙な儀式。

 現代社会において、お化けだの人魂など、僕は信じないのですが……それが長年、をさまよい続けると、自我を失ってしまうとか。そして、エネルギーのような塊になるそうです。ただ、自我を失っても、元は人間。なので他の人間など生きているモノに、集まる習性があるのだとか。精気を少しずつ、吸わないとこの世では消滅してしまうので、無意識に付くそうです。

 今回、そのエネルギー人魂は人に付き、キャンプ地に運ばれた。そこでもっと生気あふれるイノシシに乗り移り、どんどん膨れ上がり、あんな巨大イノシシになったと――

 そうならないために、僕はあの地主神疫病神に拍子木を持たされて市中を叩いて回った次第、だそうです。

 に帰らず、そんなのが現れる結果になるのは……しかもそれを処理するのは、現代の、この国に暮らす魔女の仕事のひとつになっているとか。


 だから、回れというのですが……。


 深夜に、住宅地を回ったモノだから、「うるさいッ!」と怒鳴られるのが、数えられないぐらい。妙な人間――なのかな?――に追いかけ回されたのが数件。警察に通報されて補導されかけたのは、たまったものではありませんでした。

 夜中だから、吸血族の体力に人間に追いつかれ、補導されることになったら……母親の顔がちらついて……怖い。


 あっ! 肝心なことを話し忘れていました。

 バラバラになった伏見さん。

 巨大なイノシシを片付ける方法は、攻撃力の強いと思えた人狼族の鵜沼さん。と、思っていましたが、彼女はまさに。キャンプ場の中央に誘い込み、人造人間である伏見さんの体内発電機――そんなの積んでいるんだ――で、起こした電気で感電しさせる計画……だったそうですが、僕が飛び出し、計画が破綻。

 鵜沼さんが吹っ飛ばされて、早々に退場。

 たまたま僕と……僕を置いて逃げ出した一夜先輩を追いかけてきたおかげで、イノシシをキャンプ場の中央へ誘導に成功……したのはいいのですが、伏見さんが飲み込まれるのは想定外。でもって、イノシシの体内で脱出も兼ねて、高圧電流を流したそうだ。

 結果は、いわゆる水蒸気爆発。


 ドカンと一発。


 イノシシは腹を吹き飛ばされて、その衝撃で伏見さんもバラバラになったそうだ。

 僕がその爆発に巻き込まれ、気絶している間に、他の人達がバラバラになった伏見さんを回収することに。しかし、組み立てられなかったそうです。

 街に戻れば、人造人間の専門家がいるので、あのカートの中に押し込めたとか。一応、血は洗い流して。


 バラバラになった伏見さんを運んだのは、古びた白い建物。表向きは接骨院のようでした。

 組み立てている間は、伏見さんの希望もあり、男子禁制。まあ、同級生――歳は一緒のはずですが――の、人工物だけれども人間のキレイなところを象った身体には、興味は……


「喰うぞ!」


 鵜沼さんに脅されて、僕と太田は待合室で待たされたが……指先が足りないだの、関節のつなぎを間違えただの、処置室から聞こえる声が心配になってくるばかり。


 ――専門家なんだから、予備のパーツもあるよね?


 小一時間ほどかけて車椅子に乗せられた伏見さんが現れました。が、元の姿……人間のキレイなところを集めた人造人間。個々の腕や指、脚などを見ればそうですが……昨日見た伏見さんとは違う。全体のバランスが欠けている彼女が現れました。


「………………全部、部品を回収できなかったそうで」


 無表情な伏見さんが、少しご立腹のようなのは、気のせいだよね。

 後ろで各々、目を合わせないでいる一夜先輩と鵜沼さん。


 ――絶対、拾い忘れたな!


 兎にも角にも、人造人間の身体のパーツはオーダーメイドだそうで、新しい部品を注文――そんな簡単なんだ――して完全に元に戻るには、1ヶ月ぐらいかかるそう。


「……………………夏休みの間よろしく」


 伏見さんが僕に投げかけたのは、あのお盆の儀式のことだったのか? 

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夏が燻る~この世の理~ 大月クマ @smurakam1978

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