「1」
僕は「それ」を理解している。
僕は「それ」をこなせている。
だが時に。僕は「それ」を錯覚している。
テストは毎回満点だし。
成績はいつも5だし。
運動もできるし。
それなりに面白い友達もいるし。
親も優しくしてくれるし。
お小遣いだってそれなりにある。
でも。でも。
・・・・・・・・
何かが物足りない。
ゲームもできるし。
勉強に対して嫌悪感もないし。
友達とも遊べるし。
いじめだってしないし。
行きたい高校にだって行けた。
・・・・・・・・・
でも何かが足りない。
僕は僕を満たすものを探してる──
──見つからないけれど。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫
僕はポカンとした。
いつも通りの土曜日。
何気なく本を読んでいた。
するとチャイムが鳴って。
開けてみると、1人の少女が立っていた。
同じクラスの岡山しずくだった。
「なんか用ですか?」
「ふふーん」
満面の笑みでこちらに近づいてきた。
「お邪魔させていただきまーす!」
「……まぁどうぞ」
そうして岡山さんを家に入れた。
「私今日からここに住むから。」
?
お茶を注いでいたが、聞き間違いだろうか。
「なんて?」
「私今日からここに住むから!よろしく〜」
?
なんだ?家出か?
よく分からない。その、なんていうんだ。
岡山さんとは大して仲がいいわけじゃない。
というか岡山さん自体がみんなと関わりたくない的な雰囲気を持ってる。美少女ではあるから、謎は深まっている。
よく分からない人だ。
僕はこの家、実質一人暮らしだ。
父も母も海外で仕事をしていて、半年に1回程しか帰ってこない。兄弟もいないから。
かと言って女を入れる訳にはいかない。
「さっき言ってたこと、本気ですか?」
「?本気だよ〜」
「なに、家出?」
「違うよぉ〜」
なんなんだこの人は。
「ことには順序があると思いません?一つ一つ話してからにしてください」
そう言うと岡山さんはケチ、と呟いた。
「私はね、人生楽したいの。そんで、勝ち馬に乗りたいわけ」
「何言ってるんですか」
理解不能だ。おかしい。
「あ、あと敬語いいよ。鬱陶しいから」
「は?」
「いやこれから一緒に暮らしていく訳だし」
「勝手に決めないでください。出ていってください。なんですか勝ち馬に乗りたいって」
そういうと岡山さんはニヤッと音に出ない笑を零した。
「私はね、人生に何か物足りないの。いや、苦しくて辛い時もあるよ?でもね、何かが足りない。それはあなたが1番わかってるんじゃない?」
「っ──」
よく分からない。意味がわからない。
何を言っている?意図はなんだ?
ドッドッドッと心臓が高鳴る。
「だからね、私はあなたに──」
「でっ、出ていってください!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう言って家から無理やり押し出した。
チャイムが連打される。
『おーーい!君ぃ!早く開けてよ私の家!』
お前の家じゃないから!
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪
次の日も、ヤツは来た。
チャイムがうるさいから仕方なくチェーンを掛けてドアを開けた。
「ただいま──って!チェーン掛けてる!」
「ガチ迷惑なんで」
「あのねぇ…あんた」
こいつと一緒にいてはいけない気がする。
「……私はね、それなりの覚悟はあるさ」
「ほう」
何言ってんだこいつは。
「なんなら、あんたを幸せにしてみせるし、死ぬまで寄り添うつもりだよ!」
────
「あ!ちょっと嫌そうな顔しないで」
バレた。
「役に立つよ!私は。料理もできる、洗濯もできる。掃除もできるし、片付けもできる。役に立つと思わない?」
よくわからん。
「お金だって自分で出すし〜?」
「あのな、家出なら他を当たってくれ。僕の家には入れませんからね」
馬鹿みたいな話だ。
話したことも無い女子に一緒に暮らそうといわれ暮らすやつがいるか。
ってか誰でも受け入れんわ。僕なら、ね。
「チェ、私は諦めないからね」
諦めてください。お願いです。
「じゃあ帰るから」
「なんだ家がちゃんとあるのか。達者でな」
そう言って岡山さんを帰らせた。
架空の僕へ。 あーたん @rumo1808
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