第6話

これから俺は何をされるのだろう。


校舎裏の人気のない場所。そこで沈黙の中、俺と隣の席の彼女2人突っ立っていた。


え、何々、マジで身に覚えないんだけど。


このように、ただただこの状況にてんぱっている俺。


前を向いている彼女は、一向に自分の方へと振り返ってくれない。七不思議の一つかって程に謎である。


そして、この状態が約10分続き、いつしか朝のホームルームがもう少しで始まる時間。俺は、早く教室に戻りたかった。


遅れてみんなにじっと見られるのは絶対嫌だしね。


見ていると、彼女は、さっきからぶるぶると震えているだけである。時間が経つにつれて、震えが増していくのは見てて面白い。


でも流石に10分も見ていたら飽きるものだ。俺は、しびれを切らして、言葉を発した。


「あの…なんですかね…?」


俺の言葉が聞こえていないのか、まだ震えたまま前を向いている彼女。


「あの…」


様子を伺ってみるものの一向に振り返ってくれない彼女。こうなったらやるしかない。


にやりと笑い、俺は、彼女の真後ろへと立ち、耳に口を近づける。


ふっ、悪く思うなよ。これは、早く教室に戻るために取らないといけない手段なんだ!


俺は、深呼吸する。


そして、口先をとんがらせてふーっと息を吹いた。


「きゃっ!!!」


彼女の悲鳴が校舎裏に響き渡る。それと同時に彼女は、振り返った。


よしっ。


俺は、ガッツポーズをするが、それと同時に彼女の拳も顔面に飛んでくる。


「なっ、何をしてますの!」


「痛っ。…いや、君が全く動かないからさ」


「そ、それは…何でもないですわ!」


「まあ、とにかく、何でこんなところ連れて来たの? まさか、こ、こ、告──」


「ち、違いますわ!」


「じゃあ、なんだよ」


「だ、だって、さっき教室で女の子と…」


「ん? なんて?」


ごにょごにょ言っていて何を言ってるのかわからない。やはり告白なのか?!


「や、やっぱ、何でもないですわ! こ、今回は、よ、要件があって呼びましたの!」


「告白?」


「だから違いますの! こ、この間のことですわ!」


「この間?」


この間と言われても、何もした記憶が無い。瑠璃と一緒にいた時のことだろうか。


「調理実習の時、教えてもらいましたでしょ?」


「あー、教えたね。それがどうかした?」


「そ、そのことで、お、お、お、お礼をしたくて…」


急にもじもじしだす彼女。さっきから震えたりもじもじしたりと大忙しである。心なしか、顔も赤い気がする。


「べ、別に、ひゅ、深い意味はないですわよ!?」


深い意味は知らんが、別にお礼はしてもらわなくていい。


「お礼してもらう程のことして上げてないし大丈夫だよ」


「お、お礼をしないと、しゃ、癪ですのよ!」


「いや、別にそんなことしてもらわなくて大丈夫なんだけどなぁ」


「しないといけませんの!」


「え、絶対…?」


「そうですわ!」


俺は、全くお礼をしてもらうつもりなど何もなかったのだが、結局、彼女の押しに負けてしまい、お礼を受けることになってしまった。


しかし、くそノートは一旦置いておいて、このお礼で彼女との関係が少しでも良好になるかもしれない。そんなことを思っていると、彼女は、いきなりポケットのスマホを取り出し始めた。


「通報とかしないでよ? この状況だとなんも言い逃れできないからさ」


「つ、通報なんてしないですわ! そ、その、こ、交換をしたくて…」


「交換? ゲーム入れてないからモンスターとかは交換できないよ」


「ゲ、ゲームじゃなくて、リ、リンクですわ…」


『link』とは、世界で広く普及しているメッセージアプリである。つまり、彼女は、俺と連絡先を交換しようと言っているのである。


遂にやったよ、お母さん…。俺にも春がぁぁぁぁ!!!


そう感激していると彼女は、焦って言う。


「お、お礼をするために交換するだけですので、か、勘違いしないでくださいまし!」


その言葉に、多少ショックを受けながらも、彼女とリンクを交換していく。リンクを交換する彼女の姿は、嬉しそうに見えた気がした。



────────



「お前がリンクいじるなんて珍しいな。なんかあったの?」


「まぁ、ちょっと事件があったよ」


「事件?…あ、あの友達数一桁のお前が一人増えて、二桁になってる?!」


「ふっふっふっ、そうなんだよ…。俺は、もう勝ち組だっ!」


「なんか悲しいな」


あれから翌日の昼休みの屋上。


俺は、健太郎と共に菓子パンを頬張りながら、彼女からきたメールを確認していた。



【お礼は、今日の放課後でいいですか?】



このようにメールでの口調は、「ですわ!」などと違い普通の丁寧なもの。普段の彼女とは考えられない。


後、初めて知った事がある。それは、彼女の名前についてだ。今までずっと、「隣の席の彼女」としてしか認識していなかったが、これからは、「皆月 美玲」という名前で見ていこうと思う。


そんな感じで、皆月さんに返信していく。


だが、返信しようとしている所、健太郎が俺のスマホを覗き込んできた。


「ん?…皆月って、お前らもうメールする仲になってたのかよ」


健太郎は、少し驚きながらスマホの画面から俺を見上げる。


「いや、昨日交換したばっかだわ」


「ほほう、そういう感じね…」


ニヤニヤしながら俺の顔を見る健太郎。


ほんとに気持ちが悪い。この顔をこいつとイチャイチャしている奴にこれから見せてやろう。


俺は、無言でスマホをカメラに切り替え、健太郎の顔をパシャリと撮っておいた。


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ツンヤンデレな彼女に、俺は衝撃を隠せない。 〜彼女のマル秘ノートを見た俺は、彼女へグイグイ攻めていく〜 白海 時雨 @Sirasuk

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