第5話
「わが妹よ~、帰ったぞ~」
「お~、兄上よ。お帰りでござる」
「今日は、肉じゃがだぜっ」
「え~、今日給食で出たんだけど、流石に、2連続はきついって」
「は? それは、聞いてないわ。でも肉じゃがの食材しか買ってないから、強制肉じゃがだぞ」
「え、でも確かカレールーあったから、カレーにしようよ」
「無理」
そういうことで、俺は、妹の優樹菜の為にカレーを作っていく。
絶対肉じゃがにしたかったのに、妹の精神に対する猛攻撃に屈してしまった。これは、対策を考えておかないといけない。奴の精神攻撃は、中々にきついものである。
淡々と食材を切るが、俺の視界の中には、優樹菜がテレビを見る姿。少しは手伝えや、クソガキ。
意見を押し通し、尚且つ頑張って調理している人の前でのうのうとテレビを見る妹に腹立ちながら、ついにカレーを作り終わる。昼にも食べたので、全く食欲がわかない。
食の匂いをかぎつけるかのように、「お、美味しそ~」と言いながら駆け寄ってくる我が家のハイエナ。
そんなハイエナとカレーを食べながら、話していると、俺は、衝撃の事実を耳にする。
「やっぱ、優樹菜も恋愛とか気になるよなぁ?」
「え、なに、突然。どーした恋に飢えているのか、兄上よ」
「いや、最近思うんだよな。高校2年生までで、彼女いないのって悲しいなぁって」
「あー、まあ、そんなときもあるさ兄上」
まるで、彼氏がいるかのような口ぶりで話す優樹菜。その様子に、たじろぐ我。まさかな、そんな兄の先を越す妹とか俺はお断りだぞ!!!
「お、おい、優樹菜。き、貴様彼氏とかもういる系女子なのか?」
恐る恐る聞いてみる。
「え、うん。知らなかったの?」
もうさっきの言葉でなんとなく察していた俺だが、雷が落ちてきたような衝撃がズドーンと頭に直撃。
もう何も信じられないよ、神様。優樹菜が、まさか俺の敵だったなんて。こんちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!
「もうこれから優樹菜とは敵だ」
「え、何々、どーしたの。なんか目が充血してるよ?大丈夫?」
「すべて優樹菜のせいだ」
「理不尽だよ、兄上」
「その彼氏は、名をなんというのだっ!!!」
「名前分かってどうするの」
「そんなん知らん! はよ教えろクソガキ!」
「ええ、松野 春樹君って人だよ。知らないでしょ?」
「…松野…松野春樹…?」
松野春樹という名前を聞き、一人の人物が頭の中に思い浮かぶ。なぜか頭の片隅にその名前があるのだ。ん?
必死に記憶を掘り起こす。そして、
「…あ! お前そいつ姉いるだろっ!」
「いるけど、それが?」
やはりそうだったか。しっかり教室で寝ているふりをしている時、周囲に聞き耳を立てといてよかったっ。
そう、この間、確かに聞こえてきたのだ。
『──春樹が、あ、うちの弟がさぁ、まじ最近調子のってんの』
という言葉がっ!!! 流石俺!
「ふっふっふっ、優樹菜、俺を敵に回したこと後悔するが良い!」
俺は、笑いながら優樹菜に指さし、俺は、カレーを口の中にオラオラとかきこみ部屋の中へレッツゴーした。
明日、姉に会って事情を聞くしかない。これは一大事だ。いつも夜行性である俺だが今日は、気合を入れるため早く就寝した。
────────
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は、教室に向かって全速力で走っていく。周りの生徒はその姿にドン引きである。それもそうだ。超へとへとで超遅いからな。
しかし、普段の日の目を浴びない俺にとっては爽快であった。みんなが俺を見てる、俺かっけぇ!
走っていると、途中で健太郎と遭遇した。
「どしたん、なんか凄い汗臭いよ?」
「俺は、今燃えているんだっ!」
「なにそれ」
「はぁはぁ、ところで松野って俺のクラスにいたよな?」
「ん、あのギャル? いたな」
「了解っ!」
「え、おま、何する気──」
俺は、健太郎が返事する前に走り去る。
教室に入ると、いつも通りのメンツがそろっている。
当然隣の席の彼女もいた。まあ、今はどうでもいい。
その中で、俺の今回の目的。スカートも短く、茶髪ロングのいかにもチャラそうな方がいらっしゃる。
俺のレベルだと少しキツいが気合いで何とかなるだろう。
俺は、三人でしゃべっている松野らしき人物に話しかけた。
「あ、あの、ま、松野様でしょうか?」
しゃべりかけてみると、睨まれ、怯みとてつもなく敬語になってしまう俺。他二人の女子にも睨まれる。帰りたいよ、妹よ。
「ん、そうだけど? てか、あんた誰?」
「は、はい、私、片桐というものでして」
ため口でしゃべったら殺されるっ。鋭い眼光にビビり散らかす。怖いもん。
「そんな奴いたっけ」
「それなー、誰こいつ」
松野と周囲の取り巻きの一言で、もう心が折れそうであった。だが、俺は、くじけない。
「あの、今日はですねお伺いした──」
「何をしてますの?」
しかし、俺の言葉は、隣の彼女によって遮られた。予想外の展開にあっけにとられる。
「え、い、いや、普通に聞きたいことがあって」
「ちょっとこっちにいらっしゃい」
松野を含めた三人のイケイケ女子に見られながら、俺は、金髪お嬢様に腕を掴まれどこかにつれていかれる。すれ違った健太郎は、笑いをこらえながら、俺が連行される様子を見ていた。
やっぱ、暴言集ばらまくしかないな。
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