第4話

俺たちの前方、5メートル先には、ボーっとこっちを見ながら、棒立ちの彼女。


俺は当然困惑の嵐であった。


なぜ自分に声をかけず、突っ立っているのか。ホラー級の怖さである。ま、まさか俺のことを認識していない?!


そんなわけないと思いながら、俺も彼女のことを見つめ返しながら、足を止める。それに気づいた瑠璃も足を止めた。


「ん? 誰? あんたの友達? いや、でも、あんたに友達もいるわけないし…」


「お前、俺に対して失礼すぎるからな。後で覚えとけ」


「どうせ私には勝てないくせに~」


俺と瑠璃話しあっている中、遂に屍状態だった彼女は動き出す。


そして、わなわなと震えだす。


その姿に恐怖する俺。


これから包丁で刺されるのだろうか。そうかそうか、遂に俺のハイパーゴッドレフトハンドが牙を向く時が来たのかっ!!!


俺は、左手をぶんぶんぶんぶん回しながら、構え戦闘態勢へと入る。


「あんた何してんのよ。いかにも運動できない人の手の振り回し方になってるわよ」


「俺は、出来るっ!!!」


「何がよ。なんか彼女震えてるけど、話しかけるわよ?」


「おう!」


瑠璃は、彼女の所け少し近づき、話しかけた。そのコミュ力だけは、尊敬しちゃうよ。


「あの、こいつのお友達ですか?」


「……ですわ」


「ん、なんですか?」


「…ンチですわ」


「ん?」


「だっ、抱きつくなんてハレンチですわっ!!!」


「あ、ごめん」


「ま、まさかっ、あなた方、恋仲にありますの…?」


彼女は、恐る恐る聞いてくる。それを聞いて俺は、笑い転げそうだった。


瑠璃と付き合う。そのフレーズを聞いただけで、恐ろしい。毎日、殴られそうだ。Mじゃないし特にうれしくもない。あ、逆に瑠璃を殴りたいとかじゃないからな。


まあ、俺は特に心配することもなく瑠璃の彼女への返事を黙って聞いていた。


すると瑠璃は、とんでもないことを言いだす。


「そうだよ~!」


にこにことしながら、瑠璃は言う。


これには、にこにこしていた心優しき俺もびっくりぽん。


何言ってんのこいつ?


しかし、驚く俺をよそにまるで、世界が終わるかのような顔をする人物がいた。


「そ、そ、そうなんですか? 片桐くん?」


明らかに同様を隠せて無い彼女。彼女の顔は、怒りも少し混じったような複雑な顔だった。普通に怖い。


「ふっふっふっ、噓だよ。驚かせちゃってごめんね~」


俺が答える前に、瑠璃はそう言う。空気を和ませるための冗談だったらしい。誤解も解けて何よりだ。そう思った矢先、


「じゃ、じゃあ、なんで抱きついたんですか?」


「ええ、それは、まあ、ノリみたいな?」


あはは~と瑠璃は、笑いながら彼女へ言う。そんな中、彼女は、俺の一歩前にいる瑠璃に近づいた。


そして、彼女は、瑠璃の耳に口を近づける。何かを言っているようだった。何を言っているのか聞こえない。この様子に、俺は不穏な空気を感じていた。


その予感は当たっていたのかもしれない。


瑠璃の顔は、どんどん青ざめていく。


何かを伝え終わったのか彼女は、俺を一回見て去っていた。


去ったのを確認すると、瑠璃の元へ行く。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


「え? どーゆーことだよ」


「えっとね、彼女は、恐ろしいってことだけ言っとく」


俺の顔を同情するかのような眼差しで見てくる瑠璃。


瑠璃は、よっぽどの事をされない限り、おびえたり、恐れたりしない。ということは、それ程の何かを彼女は言ったわけである。


「ま、俺に倒せない相手なんかいない!」


「死ぬよ?」


瑠璃の言葉は、一見冗談にも思えるが声色は至って真剣であった。


彼女は、自分に好意を抱いてくれているかもしれない。普段の自分への扱いからはそう見えないが、そう思わせてしまうのは全てくそノートのせいだ。


とにかくそんな相手に恐ろしいなどと思うのも、酷い気もする。そんな簡単に俺の彼女への態度は変わらない。



────────



私は、家に帰った後、あの時あった彼女について考えていた。


あの時を思い出すだけで背筋が凍る。今では、あいつにふざけて抱きつくんじゃなかったと後悔している。


そうあの時…




「じゃ、じゃあ、なんで抱きついたんですか?」


私は、この時点で気づいていた。彼女があいつを好きだということを。なぜあの時最善の言葉を選べなかったのか。


そして、彼女は、私に近づき、とてつもない言葉のマシンガンを打ってきた。


「…あのさ、ノリとかでしずとくんに抱きついたりしないでくれるかな? しずとくんに抱きついていいのは、私だけだから。そもそも、あなた誰? 私としずとくんの間に入るとか有り得ない。今度、なんかしずとくんにちょっかいでもかけたら…分かってるよね?」


流石の私でも、これには驚いた。これは、軽い好意じゃない。あいつは、もし好意に気づいているとするなら、軽く考えているのかもしれないがこれは、確実に軽いとかそういう次元の話ではない。


これからあいつは彼女の「愛」によって、何もかも振り回されるだろう。


まあ、私は傍観者として見守っておくこととしよう。


どんまい、片桐。

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