第3話


今日は何を作ろうか。優樹菜がカレー好きだし、作ってもいいけど俺、今日食べたんだよなぁ。


さすがの食欲の権化の俺でも2連続カレーはちょっときつい。さあ、どうしよう。



そうカートを引きながら、悩んでいると、一人の女子が近づいてきた。俺は、警戒し、身構える。俺に近づく女子は、みんな敵だっ!


近づいてくる女子は、同じくカートを引きながらのご登場である。


「なにしてんの? あんた」


「敵への威嚇だっ。しゅっしゅっ!」


俺は、ブローかます。しかし、目の前にいる赤い髪の凛々しい女には、無意味だった。


「うおっ、俺のスーパーストロングライトハンドがっ! き、貴様、何者だっ?!」


「あんたいつまで、幼稚園の戦いごっこやってるつもりよ」


「いや、つい俺の生存本能刺激されて、戦闘態勢に入っちまった」


俺は、てへっと笑うが、瑠璃は、あきれている様子だった。


「まあ、あんたが変なのはいつものことだけど」


「ひでぇな。なんで健太郎と言い、お前と言い俺の周りには、最悪な奴らばっかなんだっ?!」


「日頃の行いだよ」


へっ、と笑いながら瑠璃は、言う。


「で、そんなことは置いといて、今日は何にする?」


瑠璃とは、中学が同じで中学で関わることは、無かったのだが、このスーパーでよくお互いを見かける内に仲良くなった奴である。スポーツも万能で、水泳がすごかった記憶がある。昔の俺には、陽のオーラで輝かしすぎて見えなかった。


そんなこんなで、高校は別々の所へ行ったのだが、こうしてスーパーで度々会う。で、その度に質問してくるのがこの内容。今日のごはん何にするのか問題。


大体、二人ともご飯を何にするのか決めておらず、スーパーに来るので会った時は、必ず同じものにしようと決めている。考える手間が一個減るのでこの制度は、素晴らしい。


「んー、なんだろう。あ、肉じゃがとかどう?」


「おお、いいねそれ! 肉じゃがにしよ!」


気に入っていただけたようだ。


その後、俺達は肉じゃがの材料をを探しながら、色々な話を交わした。前に会ったのが、3、4か月くらい前だったので、いろいろ積もる話があったらしく俺は、ずっと瑠璃の話を聞くという、とてもつらい状況に陥っていた。ほぼほぼ、周りの女子への愚痴なので逃げたい。


「ほんとあいつ、男子に媚び売りすぎんだよ。くそが」


「そうだねー。あ、あのパン美味しいから、食べたほうがいいよ」


「え? あー、この前食べたわ。あ、で、さっきの女子のことなんだけど…」


必死に、話をそらすが、無意味である。こんなの理不尽だ!


しかし、対抗すれば、お得意の怪力で殺されてしまう。


くっ、脱出方法が見当たらないだとっ?!


「…ん? 聞いてるの?あんた」


「は、はい、聞いてます!」


結局俺は、ビビりにビビり、鬱憤がたまった心を抑え、瑠璃の愚痴に耐え続けた。




「…はぁ、なんか沢山喋ってすっきりしたわ。あんたなんかないの?」


スーパーからの帰り道。手提げ袋を両手に持ちながら瑠璃にそう言われる。ちなみに片方は、瑠璃のである。なんとも腹が立つ。


しかも、なんだ。あんたなんかないの?とは。なめてるのか。お前がしゃべる隙を与えてくれなかったんだろ。別に話すようなことが無いのは、ほんとだけどな!


まあ、でもそんなことは言わず、


「いや、特にないな。あ、最近、女子に好かれるように頑張ってるくらい」


最近、密かに頑張っていることを言ってみる。女子というのは、当然、隣の席の彼女である。


「え、まじで?! 頑張りなっ! あんた顔良いんだし、その根暗な性格さえ直せばいけるよっ」


「うるせぇ、俺は超絶リア充陽キャだ!」


「寝言は、寝ていっとけ」


「すみません」


俺は、なんか悲しくなりながらも、瑠璃に手提げ袋を持つように言う。とにかく重い。材料同じなはずなのに、何買ってんだと思い、中を見ると大きな炭酸飲料が三本入っていた。太るぞ。


「えー、重いし、やなんだけど」


「いや、これお前のだろ! 俺もさっきから重くて困ってんだよ!」


全力で訴えるがこれも虚しく散っていく。


「男なんだから、力出しなさいよ、情けない」


「お、お前、ぶっとばすぞ…」


怒りがふつふつと煮えたぎり沸点まで達しそうである。まじ来世でも恨むからな。


しかも、疲れてるとかなら分かるんですけど、さっきからこの人、ずっと余裕そうな顔してるんですよ。もう逮捕案件です。


そして、俺らは、遂に魔の公園エリアに差し掛かった。


普通の人なら何も気にしないだろう。でも、俺は、超絶気にしてしまう。理由は、言わなくとも分かるだろう。


しかし、もう日も暮れすっかり夜になった公園からは、子供達の声もしない。尚且つ、今日の分?は、見たので平常心を装うことが出来た。


「もう、すっかり暗くなったね」


「犯罪とか起こりそうだな」


「きゃっ、静人くん怖いっ! 手、つないでくれない?」


いきなり、瑠璃は、俺の方に抱きつき、上目遣いをする。とても可愛いが、生憎俺には、女子に抱き着かれる耐性がなかった。


「あほなこと言うな。不審者来てもお前なら、瑠璃パンチで一発KOだ」


俺は、そう瑠璃を引きはがす。少し引き剥がすのが惜しい気持ちになる自分を殴りたい。


「えー、喜んでる癖に~」


「な、なぜばれたっ?!」


「女の勘ってやつよ!」


「こえーな女子」


女子の怖さに改めて怯える。瑠璃は、終始ずっとにやにやしていた。まあ、前からこんな感だし、驚きもないけど。


こんな話をしていると、あっという間に公園エリアを通過する。公園をスルー出来たことに俺は歓喜で泣き叫びたかった。




しかし、俺たちが見るその先には硬直し石像みたいになっている例の彼女がいた。

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