年下のお姉ちゃん

黒百合咲夜

お誕生日おめでとう

 私にはお姉ちゃんがいる。

 朝に弱い私を毎日起こしてくれて、忘れ物をしていないか確認してくれる。学校にも一緒に行ってくれる最高のお姉ちゃんだ。

 今日もお姉ちゃんと一緒に家を出た。学校に着くまで、お姉ちゃんとお話ししよう。


「そういえば、今日はお姉ちゃんの誕生日だね」

「そうだった! 忘れていたよ~」

「お誕生日おめでとう。いくつになったんだっけ?」

「私は永遠の八歳だよ! 羨ましいでしょ~」

「……そう、だね。私もずっと若いままがいいな」


 明るい笑顔でそんなことを言うお姉ちゃんに私も微笑む。

 プレゼントは何がいい? 今日の晩ご飯はお母さんが豪華な料理を用意してくれるね。今夜はいつもよりたくさんお話ししようね。

 そんな、他愛もない会話をしていると学校に着いた。多くの生徒が校門を潜っていく。


「じゃあ、また後で」

「うん。また後でね」


 お姉ちゃんとはここで一度お別れ。

 お姉ちゃんに見送られるようにして、私は自分の教室へと歩いていく。


      ◆◆◆◆◆


 帰りのチャイムが鳴る。

 今日は大事な用事があるから部活はお休み。急いで帰り支度を整えていると、テニスラケットを担いだ部活の友だちが近付いてくる。


「あれ、どうしたのー? サボり?」

「違うよ。今日は大事な用事があるからね」

「用事? ……あ、そうか。今日はお姉さんの……」


 無言で頷く。

 友だちは私の肩を何度か叩いて教室を出て行った。私も鞄を持って小走りに教室を飛び出す。早くしないと、目的のお店が閉まっちゃうかもしれないから。

 学校を飛び出して家とは違う方向に走る。重たい教科書が入った鞄が走ることを邪魔してくるけど、気にせずに走る。

 やって来たのは商店街。この商店街のお店は閉まる時間が早いから、部活を休んでいろいろ買いに来たの。

 最初に入ったのはお花屋さん。お店の外装がおしゃれな感じで、人が良いお姉さんが店を切り盛りしている。

 お店の中で私は花を選んでいく。お姉ちゃんが好きな花を選んで花束としてプレゼントしようと思っているから。

 気がつくと、私はたくさんの花を抱えていた。爽やかな花の香りが漂う。


「い、いつの間に……」


 特に何も考えることなく手に取っていたみたいだ。さすがにこれ以上増えると私のお財布に深刻なダメージを与えそうだからここら辺でやめておこう。この後もまだお金を使うんだから、全財産を使ってしまうと大変だ。

 お姉さんに花を渡して花束にしてもらう。料金を支払ってお店を出ると、次にケーキ屋さんに向かった。

 商店街の中央付近にあるケーキ屋さん。このお店のショートケーキがお姉ちゃんの大好物なんだ。私はチョコケーキが好きだけどね。

 もうすっかり顔見知りになったケーキ屋のオーナーさんと少し会話し、ショートケーキとチョコケーキを買う。お母さんとお父さんのためにモンブランも追加で買おうかな?

 支払いを終えると、荷物は多くなったが財布はスッキリした。右手にケーキが入った箱、左腕で花束を抱えて鞄を背負って帰る。もう、お姉ちゃんは家に帰っていて私のことを待っているだろうから。


 商店街から家に帰る道の途中、ふと私はそれを見つけた。

 新しいガードレールの近くに置かれている、いくつもの花束。あぁ、十年前に起きた事故をまだ覚えている人がいて、その人が花束をお供えしてくれてるんだ。事故に遭った人の家族、かな?

 十年前、居眠り運転のトラックが下校中の小学生に突っ込む事故が起きた。その事故でたしか六人が亡くなってしまったのよね。

 私もよく覚えてる。忘れられるはずがないもの。その事故が起きた瞬間、私はここにいたのだから。

 そっと花束が置かれている場所まで歩いていく。

 ケーキの箱を置き、花束から花を取り出してハンカチで包む。簡易的だけど、これで花束のできあがり。私も、少しだけどお供えしておこう。

 花を置いて私は帰る。思えば、ここにお花をお供えしたのは初めてだな。


      ◆◆◆◆◆


 「ただいま」と言って家に入る。

 脱いだ靴を揃えていると、階段をお姉ちゃんが勢いよく駆け下りてきた。


「おかえりなさい! 遅かったね?」

「お姉ちゃんのために誕生日プレゼントを買ってきたの。ほら、花束とケーキ」

「わ、すごーい! 毎年ありがとう!」

「いいんだよ。お姉ちゃんが喜んでくれるなら」


 自分の部屋に行く前にリビングに入る。

 机の上にケーキの箱を置き、花束も一緒に置くとキッチンから美味しそうな匂いと一緒にお母さんが顔を出した。


「おかえりなさい。誰かお友だち?」

「ううん。お姉ちゃん」

「そう。あの子なのね」


 お母さんはまたキッチンに戻っていった。お姉ちゃんが大好きなハンバーグでも作っているのだろう。

 その間に私は自分の部屋で着替えることにする。いつまでも制服ってわけには、ねぇ。

 部屋着に着替えてベッドでお姉ちゃんといっぱいお話しする。朝、学校に行くまでに約束したからね。

 一時間くらい話していると、玄関が開く音がした。お父さんの声がする。

 ということはそろそろご飯の時間だね。私もお姉ちゃんも下に降りていく。

 家族揃ってお姉ちゃんのお祝いだ。大皿にハンバーグをたくさん載せ、お姉ちゃんが好きだったポテトサラダやご飯、デザートに私が買ってきたケーキも用意して運ぶ。もちろん、花束も忘れない。

 お姉ちゃんのために用意したものを一式、お姉ちゃんの前に並べる。これで準備は整ったね。


「お姉ちゃん。お誕生日おめでとう」

「あかり。お誕生日おめでとう」

「おめでとう。またひとつ……大きくなったな……っ!」

「……うん。みんな、ありがとう」


 満面の笑みをお姉ちゃんが浮かべている。

 その写真の横で、写真の少女とまったく同じ少女が寂しそうに微笑んだ。

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