第15話 雨宿りの晩…

 そういえば真実が貸してくれたリュックに何か入っているだろうか……。


 リュックを開けるとさすがと言うべきか…。

 サバイバルナイフやら雨具やタオル、水なんかも入っていた。


 タオルを水野さんに渡す。


 「頭拭きな、濡れたままだと風邪ひいちゃうから…」


 水野さんはタオルを受け取ると髪を拭き始める。




 「あ、これはすごい…。」


 リュックの脇にさりげなくついているのはファイヤースターターと呼ばれる火起こしグッズだ。

 確か使い方は…。

 

 記憶を呼び起こして器具を擦り合わせる。

 何度かやっていると火花が出た。

 う~ん

 なかなか難しい。

 

 何度目かで枯れ草に火を付けられた。

 燃やすもの…。

 周りを見渡すと洞窟の近くに大きな倒木があるし、洞窟内にも枯れ葉やら枝が落ちていた。


 濡れた上着を迫り出した岩に掛け、辺りに散らばっていた枯れ葉やら枝を小さな火に焚べるとたちまち焚き火は大きくなった。


 しかしやはりこれではすぐに燃やすものは無くなってしまうだろう。


 もっと燃やすものを持ってこないと……


 「水野さん少し待っててね」


 リュックに入っていた雨具を着て洞窟から飛び出し燃やすものを集める。


 洞窟の外はやはり土砂降りで一瞬でずぶ濡れになったがカッパのおかげでそこまで濡れずに済んだ。


 枯れ木は雨に濡れてしまっていたが燃えるだろうか?


 持てるだけ持って洞窟に戻る。

 

 「青海くん…」

 

 泉は透の来ていた服を身につけている。

 火のそばに濡れた服と枯れ木を置き乾かす。


 泉がそばに寄ってくると絞ったタオルで髪を拭いてくれる…。

 

 「俺より水野さんが…。」


 タオルを取り上げて水野さんの髪を拭く。

 …何もしないよりマシなはず。


 水野さんの濡れた髪にかかる肩が少し震えている。

 こんな格好じゃ寒いよな…。


 きっと着ないよりマシかな…。


 泉にカッパを着せて火のそばに座らせる。


 しかし濡れた服を着ていると本当に寒い…。


 「水野さんちょっとごめんね…」


 濡れた中着が冷たかったので脱ぐ。

 上半身裸になった透を見て泉が赤くなる。

 

 真実に貰った上着は水を払い火のそばに置いたらすぐに乾いた。

 

 それを羽織るとなんとかマシになる。

 ズボンは…我慢するしかない。


 流石に泉の前でパンツ一枚とか…無理。





 透の着ていた大きめの服とカッパで一応隠れてはいたが水野さんは寒そうだ。



 「水野さんこっちおいで…。」


 風の入って来ない場所を選び座り込んだ。

 

 「イヤだろうけど…何もしないよりマシだろうから…」


 来ていた上着のチャックを開けて水野さんの背を抱きしめる。


 「青海君…温かいね…」


 泉が寄りかかってくるのを受け止める。


 少しでも暖かくなるように着ている上着で泉を包むとお互いの体温で少し暖かくなる。


 

 「きっとそのうち誰か来てくれるよ」


 そう言いながらパチパチと焚き火が燃える音を聞いていた。


 外は相変わらず雨が降り続いている。


 

 ★



 「おい、透!」


 強く肩を揺さぶられる。

 この声は…。


 「真実…。水野さん足怪我してるんだ…何とかして…」


 それだけ何とか言う。


 寒くて仕方なかった。


 毛布に包まれた泉が足を応急処置されているのが見えた。


 良かった…


 やっぱり真実が来てくれた。

 ホッとした。


 


 ★


 

 気づいたら病院だった。


 ベッドから起きると側で真実が本を読んでいた。


 「起きたか…透?」


 「真実!水野さんは?」


 飛び起きようとすると止められる。

 

 「泉はお前より前に退院してるよ。足捻っただけだし。一応検査入院だけしたくらいだよ…。普通に歩けるしもうすぐ来ると思う。」


 「真実…ごめん…水野さんの事守りきれなくて」


 そう言ったら真実は笑った。


 「何言ってんだよ…お前は泉を守り切っただろ…」


 真実に頭を撫でられ、グッと抱きしめられた。


 「ありがとうな…」


 ★


 そのまま休んでいたら水野さんと年配の男の人が来た。

 もしかしたら真実がもっと歳を取ったら……こんな感じではなかろうか?といった感じの……

 この人…真実のじいちゃんか!?


 それと少し歩きにくそうな水野さんの姿…


 「水野さん大丈夫なの!?」


 そう声をかけると水野さんは微笑んだ。


 「青海君のおかげだよ。ありがとう。」





 

 「泉を守ってくれてありがとうございました…」


 真実のじいちゃんは俺なんかに頭を下げ出す。


 「イヤ、俺なんか全然…。そもそも助かったのだって真実に借りたリュックの中身のおかげだし…」


 慌ててしまう。

 そんなオレを真実のじいちゃんが抱きしめてくれた。


 「大事な孫を守ってくれて本当にありがとう」


 そう言われて…何でだろう…泣いてしまった。

 

 落ち着くまで泉が背中を撫でていてくれて…。


 

 発見された時オレは少し低体温気味になってたらしい。

 

 1晩ほど眠り続けたそうだ。


 検査を受けて何も問題はないと言われたのでその日に退院した。





 泉のじいちゃんの別荘で予定通り残りの期間を過ごして家に帰る。


 泉のじいちゃんとは結構話もしたしオレの事を聞きたがっていたので隠さずに話した。


 昔の真実と泉の話も聞けて楽しかったし完全に体が戻ってから一緒に山登りもした。


 楽しくてあっという間に時間は過ぎる。


 

 

 「泉と真実とこれからも仲良くしてやってください。それから困ったことが起きたら私のところに来なさい…」


 真実のじいちゃんにそう言われて送り出される。


 みんなでお礼を言って別荘を後にした。







 「ただいま…」


 1週間ぶりに水野家に帰って来た。

 たった一週間なのにすごい懐かしい。


 なんだかホッとしていた。


 「おかえりなさい」


 水野さんがそう言いながら微笑んだ。

 みんなそれぞれの思い出を持ち帰って来た。

 真実は玄関から家に上がるなり、

 「早速みんなで課題終わらせるぞ!」

 と言い出した。

 真実の一言はグサッとくる。


 そう、これからあとは課題をひたすら終わらせていく作業が待っている。

 

 真実が笑いながらオレの肩を叩いて部屋に上がって行った。



 

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君と一緒にいられたら〜青海透の恋愛事情★ 青海 @oumu0001

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