いくじなし*ティアドロップ
凪水 なも
第1話 似せ者二日目、あえなく露見。
「……あの、好きです!付き合ってください!」
12月の半ばに差し掛かったある火曜日のこと。
今日を何事もなく終えられると安心していたあたし、
「……あー……」
おっと、戸惑いを通り越して呆然のあまり気の抜けた声が漏れ出てしまった。
手紙の内容は告白だと何となく感づいていたけど、もし待たせていたら申し訳ないと思えて無視する訳にいかず……。
とりあえずその手紙に書かれていた場所――――校舎裏に来てみたら案の定、告白された……というわけだ。
告白してきた先輩は、
150センチあるかないかの小さな背に、まつ毛に少しかかる前髪……腰くらいの長さのストレートの金髪はドット柄のシュシュでツインテールに束ねられている。
微かに吹きぬける風が、髪と共にセーラー服のスカーフと短めに折られたスカートを揺らした。
見据えられたら何故か身構えてしまいそうなつり目が印象的だけど、悪っぽい雰囲気は感じられない。
整った顔立ちは誰が見ても美少女だと思う。ちなみに顔はすっごく真っ赤だ。
――――……さて、どうしたものか。
そもそも彼女は、あたしに告白しに来たのではない。
彼女が告白したのは――――……、あたしの弟だ。
双子の姉であるあたしは、湊に頼まれてこの1週間だけ湊の替え玉として自分が通っている高校とは別の、湊が在籍する高校に通うことになっている。
つまり今のあたしの姿は、弟と瓜二つの男装だということ。
ってなわけで……。
……とりあえずここは保留にしておいて、後はあいつに投げとくか……。
まずは声を似せる為にチューニングしなければ。……この辺かな。
「え、えーと……、ありがとう。気持ちはうれしいけど、考え……「へへへへ、返事は今度でいいからーーーっっ!!!」
弟に似せた低い声も食い気味に、先輩が顔全体を真っ赤にしながら叫び声で走っていった。
「えっ、ちょっと待っ……」
ていうか目を瞑って走っていったら危な……?!
ドンッ!
先輩が向こうから歩いてきた女子生徒にぶつかった。
ほら、言わんこっちゃない(言ってない)。
佐藤先輩は勢いよく尻餅をついた。
「……いったた……」
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
ぶつかった相手の女子が前下がりショートの黒髪を片手で耳に掛けながら、落ち着いた声でもう片方の手を差し伸べる。
その表情は微笑を浮かべていた。
「……げ」
あたしは彼女を見て、ジト目でつい心の声が出てしまった。
湊と同じクラスの2年A組、
この高校の生徒会長、そしてあたしたち双子と小学生の時からの腐れ縁。
3人ともずっと同じクラスで家が近いことから3人でよく遊んでいた。
昔は家の近くの公園で3人とも走り回ってボール遊びやら鬼ごっこやら……、活発に遊んでいたけど、いつのまにやら一人だけおしとやかで大人っぽい雰囲気を纏って成長した。
こいつも湊と並んでよくモテるようだ。
ちなみに明日奈はあたしが湊に成り代わっていることを知っている。
「あ、ありがと……」
何の疑いもせず、差し出された明日奈の手に自分の手を重ねて立ち上がる佐藤先輩。
「……ふ」
手を重ねられた瞬間、明日奈が吹き出し、クスクスと笑った。
佐藤先輩は突然の笑われように戸惑いを見せる。……これはもしや。
「……? なに笑って……、……っ!!」
問いかけて、先輩は何かに気付いたようだ。
その顔はまた赤くなっている。
「……ああ、あんたまさか……今の……?」
ぷるぷると震え、表情を引きつらせながら、折り曲げた人差し指を明日奈に向ける佐藤先輩。
「ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんですけど」
やっぱり見ていたのか……。
明日奈はちょっと……というか、かなりSっ気の強い性格をしている。他人の困った表情が好きなのだ。
謝っているけど半分笑っているのがバレバレ。
昔から相変わらずなところに心の中で苦笑していると。
「…………先輩、そいつ……女の子ですよ?」
……こ、こいつ……とんでもなく余計なことを……言いおった……!!!
変な汗が噴き出て絶句するあたし。
「…………は?」
佐藤先輩はぽかんとして、目を見開いていた。
いくじなし*ティアドロップ 凪水 なも @nagi_ayuno22
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