これから

「はぁ……」

 朝の人も少なく、物静かな教室に俺の溜息が響いてしまう。

「もう5回目。聞いているだけで不幸になる気がするから止めて」

「学校来る前から含めたら8回」

「自覚あるんだ……」

「だってさぁ……」

 眠くもないのに、頭が全く上がらない。ついでに言うならうだつも上がらない。

「ほら、他の人来る前までに落ち着きなよ。宮村くんだってバレたくないでしょ?」

「そうだけど……はぁ……」

「もー!しつこい!」

 今まで平静を装っていた真白だったが、いい加減に声を荒らげた。

「だってフラれて落ち込まないわけないだろ……」

 昨日、俺はフラれた。

 間違いなくフラれた……はずだ。

「吉町さん好きです。付き合ってください」

「ごめんなさい」

 ちょっとだけでも期待があった。

「そっ……か」

 ショックが隠せなかった俺は、一瞬言葉が詰まってしまった。

 それ以上、言葉が出てこなかった俺に代わって吉町は話し出した。

「でも宮村くん」

「な、なんですか」

 吉町はちょっとだけ恥ずかしがる。

「私も宮村くん好きです」

「え?」

 今度は理解不能で言葉が詰まってしまう。

 ここでわざわざ口に出す『好き』なんて意味は一つしかないはずだ。

 頭を回せば回すほどに混乱していく。

「えっ……好きなのに?」

「うん、好きだから」

「……?」

 ただフラれただけのはずなのに、どんどんとその言葉の真意が分からなくなっていく。

「私ね。宮村くんみやいな人が好きなの。誰にでも優しくて、そのために躊躇なく動ける人が」

 マジマジと見つめられてそんなこと言われて、こちらばかりがどんどん恥ずかしくなってくる。

「だから今、宮村くんに告白されて嬉しかった」

「俺も吉町のこと好き」

「でも……宮村くん、真白ちゃんのことも好きでしょ?」

「そんなことない」

 俺はハッキリと否定した。

「俺が好きなのは吉町だ」

「うん、分かってるよ。宮村くんにそんな甲斐性がないのもね」

 なんか若干トゲありません?

「宮村くんは今のままの気持ちなら、私を好きでいてくれるかもしれないけど、もしかしたら真白ちゃんのことが好きになるかもしれないでしょ?」

「そんなこと……」

「絶対にない?」

「……ごめん、ちょっと自信ない」

 吉町に嘘を付いても見透かされる気がした。俺は恐る恐る彼女から目線を外して呟く。

「失望したよな。ごめん」

 俺がみっともなさからその場を去ろうとする。が後ろから笑い声が聞こえてきた。

「ふふっ……あはは!」

 耐え切れなくなった吉町はジワジワと笑いだし、終いには声まで出して笑いだした。

「な、なんで笑うんだよ」

「いやーごめんごめん、本当に宮村くんらしくって」

 彼女はひとしきり笑った後に、息を整える。

「それでこそ私が好きになった宮村くんだよ」

 この短時間に二回目になるその言葉だが、もちろん慣れることはない体温の上がる感覚が伝わってくる。

「嘘ついたって仕方ないだろ……」

「私はね。宮村くんのことだいぶ好きなの」

 腕を大きく使って気持ちをアピールする吉町はめちゃくちゃ可愛かった。

「だけど宮村くんは少しでも真白ちゃんのことが好きなのは気に入らないの」

「えぇ……」

 困惑の色を隠せない俺に、吉町はニコニコしながら近づいてくる。

「だから私の事がもう一回好きになったら告白してきて?」

 耳元で吉町は優しく呟く。

 思わずバっと距離を取ってしまう。

「それでもいい?」

「……分かったよ」

「うん、おっけー」

 満足したように、彼女は半歩下がる。

「あのさ吉町」

「何?」

「もしも俺の気持ちが変わらなくて、吉町に告白したらなんて答えるんだ?」

「え」

 ここまでニコニコしたり、俺の事をからかっていた吉町はみるみるうちに顔が赤くなっていくのが分かる。

「それは……」

「どうなんだ?」

「…………か」

「なんて言った?」

 彼女の声が一気に小さくなる。

 今度は俺の方から吉町に近づく。

「もう一回言ってくれない?」

「……彼女にしてくれますか?」

 俺は何も言わずに強く頷いた。

「えへへ、ありがと」

 彼女は小さくはにかんだ後に、場の気まずさをようやく理解する。

「わ、私帰る!」

 俺の言葉も聞くことなく彼女は走り去ってしまう。

 そのスピードはすさまじく、追いかける選択を取るまでに俺の視界から消えてしまった。

「え、えぇ……」


「確かにしずくらしいよね」

「その一言で片づけられたら苦労しないんだよ」

 自分で思い出しておいてどんどんを落ち込んでしまう。

「今はしずくのこと好き?」

「もちろん、今だって好きだ」

 この前の出来事があってから、自分の気持ちをハッキリと言えるようになった気がする。

「そりゃそんなに簡単に気持ち変わらないよね」

「あぁ、今すぐにもう一回告白したい」

「でもそういうことじゃないんだと思う」

 会話がタイミングよく途切れる。

 ずっと気になっていたことが一つある。

 だがさすがに聞きづらい質問に言葉が出てこない。

 俺は慎重に言葉を選び出す。

「そ、そりゃなかなか気持ちって変わらないよな……」

「吉町も思ってたよりもずっと宮村くんのこと好きみたいだからね」

「そうなのかな……」

「……何か考えてるでしょ」

 そこでようやく適当に返事していたのがバレる。

 俺の目線が勝手に真白から離れていく。

「どうせまだ宮村くんのことが好きか聞きたいんでしょ」

「それは……そうなんだけど」

 真白は呆れた様子で頬杖を付く。

「色々と言葉に出来るようになっても、どこか相変わらずヘタレね」

「本人に言うのとだと話が違うだろ」

「そう? 私は好きって言えるよ」

「あ、あぁ……そっか」

 彼女のケロッとした物言いに、何も言い返せなくなってしまう。

「なんで言われた方が顔赤くしてるの」

「逆になんで恥ずかしくないんだよ」

「一回告白したから」

「そんなものじゃないだろ……」

 やっぱりコイツ変わってる。

「おっはよー!」

 教室の扉が開き、教室に凪が入ってくる。

 そして凪に続くように吉町と八瀬も入ってきた。

「凪、今日はご機嫌だな」

「昨日のテンションが抜けなくてね。楽しかったからさ」

「今日から普通に学校だからな?」

「とか言いつつも大和だってストラップ付けてるじゃん」

「それは……別にいいだろ」

 バレないと思っていたが、凪の目からは逃れられなかったようだ。

「宮村くんも楽しかったってことでしょ?私だって、ほら」

 吉町が俺を庇うように自分のストラップも自慢している。

「でもまた行きたいよね~」

「うん、今度こそは八瀬さんと二人でクリアしたいね」

 凪と八瀬の関係も少しだけ近づいた? ようで思わず口角が上がってしまう。

「真白ちゃんは楽しかった?」

「私?」

「元々は真白ちゃんと宮村くんに楽しんでもらうために組んだんだから大事でしょ」

「そりゃ楽しかったけど……」

 真白が俺の方を見てくる。

 真白からしたら俺が真白を振った日なのだ。俺は気まずさで目線を外す。

「色々あったからね」

「何かあったの?」

「そりゃ色々だよ」

 だが次に彼女の表情を見た時には、彼女は綺麗な笑顔を浮かべていた。

「それも含めて楽しかったよ」

「そっか、ならよかったよ」

 吉町は真白の表情を見て安堵の表情を浮かべた後に、何故かこちらを見て小さく笑う。

「真白ちゃんも宮村くんも楽しかったみたいで良かったよ」

「吉町たちのおかげだよ。ありがとう」

「えー、宮村くん違うでしょ」

「え? 何か変だったか?」

 何故か吉町は不満そうにしながらこちらに近づいてくる。

 そして耳元で、でも周りには聞こえるくらいの声量で呟いた。

「しずくでしょ? 大和くん?」

「は?」

「え!?」

「え?」

「……ふっ」

 四者四葉の反応が起こる。

「もう少し距離感詰めてくれてもいいんじゃない?」

「でもいきなり……」

「いいからいいから」

「……しずく」

「うんうん、満足」

「ちょっと大和!? 何があったの!?」

「しずくも! 何があったの!」

 一人で勝手に照れていると、凪に胸倉を掴まれそうな勢いで迫られる。

 吉ま……しずくの方も八瀬に詰められている。

「いや、別に……」

「そんなわけないでしょ!?」

「そうだよ!」

「やーちゃんも凪くんも高校生でしょ?」

「「……!」」

 二人が同時に何かを察する。

「別に付き合ったりはしてないけどね?」

「本当だよ……」

 しずくがこんな勢いでは心臓が持たない。

「……まぁこれからどうなるかは分からないけどね?」

「「ちょっとぉ!?」」

「ちょっ!」

「八瀬さん手頃な縄とかない?」

「トレーニング用の縄跳びなら」

「何するつもりだよ!」

「……ちょうど窓の横はプールだったよね?」

「何するつもり!?」

 回答を聞く前に縄で俺の身体がグルグル巻きにされていく。

「面白いことするね」

「真白ちゃんだって名前で呼んでもらってるでしょ」

「特権だと思ってたんだけど」

「多分、大和くんは特権だなんて思ってないと思うけど」

「だろうね。私もしずくが距離詰めてて面白かったからいいよ」

「……それはなんで面白かったの?」

 真白は真っすぐにしずくを見て、そして不敵に笑う。

「ライバルとして」

「私は強いよ?」

「知ってる」

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うちのクラスで二番目に可愛い女の子 山芋ご飯 @yamaimogohan

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