第34話「放課後に雑談しながら告るタイミング見計らう俺とその無意識な可愛さで告らさせてくれない先輩」


 え、え、えええええええええええええええええええええええ???


 何が起こったのか分からない。これは夢か、夢なのか? 


 体をつねってみたが痛くない。思いっきり力を込めてつねり直す。いいいいいったああああああああ、めちゃくちゃ痛い!! ……ん、痛いってことはつまりこれは現実なのか?


 まだ自分の身に何が起きているか正しく理解できていない。覚悟を決めて先輩に話しかけたら、なぜか先輩から告白されてしまった。衝撃が大きすぎて脳が処理ができていないし、感情も上手く追いついてこなくてぼーっと立ち尽くしてしまっていた。


 そんな俺を先輩は緊張した面持ちで、でも決して目はそらさないで見続けている。その先輩の赤くなった表情には緊張や不安や照れが一切隠されずに出ていた。やっぱり可愛い。


 ただ、あまりにも俺に嬉しいことが起きるているのが信じられなくて先輩につい聞いてしまった。


「……あー、今のは本当なのか?」


 先輩は揺るぎない眼差しで俺を見ながら答える。


「うん、本当だよ。こんなこと冗談でなんて言わないよ」


 もちろん、先輩がこんなことを冗談で言うような性格ではないことを俺は知っていたが、どうしても信じられなくて聞いてしまった。


 そしてその言葉に続く返事が見つからず、俺は焦る。


 だけど今はいつもと違った。


 小さく深呼吸をして拳を握る。大丈夫、気持ちは決まっているんだ、だから動け、動くんだ俺。


 その言葉を皮切りに俺は本当に動いた。俺をジッと見ている先輩の腕を優しく掴み、俺の胸元に来るように引っ張った。


 そんな風に引っ張られることを想定していなかった先輩は、なんの抵抗もなく胸の中におさまる。小さくぽふっという音と共に俺に包まれた先輩から柔らかく温かくそしていい匂いが俺に伝わってきた。急なことであったけど、先輩はそのまま身じろぎせず、俺に身を任せてくれてくれた。それに幸せな気持ちになる。






 その瞬間、俺は理解した。俺はこの人と一緒に生きていくために生まれたんだと。






 そのことに気がつくと、口から自然と気持ちがこぼれた。




「好きだ、咲先輩。世界中の誰よりも」




***




 あれから咲に色々聞いた。あの日の前日と当日のこと。楓のこと。それに咲自身のこと。俺と出会ってあの日を迎えるまでの日々。いつもの変わらない日常で感じたこと。どれだけ話していても咲の俺に関する話は終わらなかった。


 こんなにも咲が俺のことを考えていてくれたなんて知らなかったし、意外にも積極的だったなんてことも知らなかった。誰かと争うことなんてないと思っていた咲が楓とライバルになっていただなんて本当に驚いた。



 そう話しながら俺は図書室に誰もいないことを確認し、咲を後ろから抱きしめた。どうもあの日以降、チャンスを見つけて咲を抱きしめることが俺の習慣になってしまった。むしろ抱きしめていない時間が長くなると禁断症状が出てくるような気さえする。


 咲も恥ずかしいという割に抵抗はしない。ただ、人目につかないようには気をつけているし、楓がいつ来るかもわからないから基本的には学校で抱きしめないようにできるだけ我慢している。



 あの日から、楓と咲と俺の関係は少し変わってしまったかもしれないが、基本的にはこの三人で放課後に図書室でゆるゆると過ごしている。ただ、以前よりもお互いに自分の気持ちをはっきりと相手に言えるようになった気がする。特に咲と楓は。俺と楓は本当に仲の良い先輩後輩になった。たとえ恋愛感情が無くてもいい先輩後輩になれる。



 そんな風に変わったこともあるけれど、変わっていないところもある俺たちの日常はまだまだゆっくり続いて行く。学校のイベントや休みに遊びに行く予定もたくさんあってなかなかに忙しい。



 そうやって今までの日々を思い出すと、なんだか遠回りしてきた気がしていたけどそれが素敵な日々を作ってくれた気がする。決して一人では作ることができなかった最高の日々を。






 ……まったく、放課後に雑談しながら告るタイミング見計らう俺とその無意識な可愛さで告らさせてくれない先輩のおかげで、俺たちの青春は最高だ!!!

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放課後に雑談しながら告るタイミング見計らう俺とその無意識な可愛さで告らさせてくれない先輩 森里ほたる @hotaru_morisato

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