5. 記憶タンス
近年、ある病気が問題となっている。
それは記憶に関するものである。
容量だ。
情報化社会が進んだ世界では人間の容量が足りなくなってしまったのだ。
そのため我々人間は記憶の整理をしなくては生きていくことができなくなった。
そこであるものが発明された。
記憶タンスだ。
これは記憶を出し入れすることができる機械である。容量が一杯になった人は記憶科の病院に行き、記憶タンスを用いた治療により記憶を保管する。こうすることで容量を整理するのだ。この治療は保険が適用されるためコストはそこまでかからない。
しかし、記憶タンスは万能ではない。
記憶タンスにも容量の制限があるのだ。そのため記憶の保存は基本三年間である。記憶は圧縮することができるが、個人的にこれを行うためにはかなりの金額を要する。そのため記憶を手放すことが一般的である。
記憶の選択は自分自身でしなければならない。小学校では記憶整理の授業が導入された。期間限定、三年間の授業である。三年間でそのデータを取り、記憶を精製し複製する。これを圧縮しすべての人に刷り込む。こうすることで記憶整理に関する問題はなくなるそうだ。
しかしこれは気休めでしかない。
問題が浮き彫りになる度、我々は対策として圧縮された記憶を頭にぶちこむことになる。
これは記憶の予防接種だ。
こんなことをして大丈夫なのか?
もちろん大丈夫なわけがない。
最近、ある研究結果が発表された。
人間の性格や行動は記憶に依存するというものだ。
いずれ人間は感情を失ってしまうのではないだろうか。
しかし、記憶タンスを手放すことはできないだろう。
これまでは二十歳から治療を始めることが主であった。今では高校生ですら遅すぎるという見解もあるようだ。
情報化社会は加速している。
記憶の出し入れ、感情がない。
これではまるでロボットではないか。
そうだ。
ロボットである。私の考え得る最高のロボットである。
ショート物語 結城 巧 @184720474
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