4. タイムリープ
何度目だろうか、彼女を失うのは。
彼女は電車にひかれた。
涙が流れない。
彼女の死に慣れてしまった自分が許せなかった。
腕時計の長い針を動かす。
僕の目の前には笑った彼女がいた。
彼女が死ぬ日、その昼頃である。
僕は過去に戻ったのだ。
僕は彼女を一日連れ出すことに決めた。
小学生の時に同級生五人と作った秘密基地。あそこであれば車も電車も不審者もいない。
僕は彼女と共に秘密基地へと向かった。
もちろん彼女の親には了承を得た。幼なじみであるため、彼女の両親からは信頼されている。
小学校の裏山だ。
大きな木の下に小屋がある。小学生六人はツリーハウスを作る予定だったが諦めた。小屋の中にはガラクタがたくさん置いてあった。確か山田が持ってきたものだ。子供の頃はそれらが宝のように思えた。高校生になった僕はその美しさを感じ取れなくなっていた。
小屋の外にレジャーシートを敷き、僕らは横になった。空気が澄んでいるのだろうか、星が見えた。
プラネタリウムのような空だった。
星を見るのは久しぶりのことだった。
小屋に戻り、オイルランプに火をともした。暗がりに炎の揺らめきが映し出される。僕らを囲んだそれは踊っているようだった。
僕らは遅くまで話をした。
子供の頃の話から未来の話まで。
小学校の運動会から始まり、中学の文化祭、三ヶ月後にせまった最後の修学旅行、将来の夢。
僕はいつの間にか寝ていたようだ。
目を覚ますと、隣に彼女はいなかった。
小屋の中にもいない。
慌てて小屋の外を見た。
「ここに花が咲いているなんて気づかなかったね」
彼女の笑顔をみた僕は安心した。
やっと終わったのだ。
僕は目から涙が流れ出ていることに気がつき、彼女に見せないようにと拭った
僕は腕時計を外し、小屋の中の宝に混ぜた。
この時計をもう一度腕にはめることはないだろう。
よし、と僕は腰を上げた。
小屋を出た僕は目の前の光景に驚いた。
「秘密基地? 行ってみたい」
僕の腕にはあの時計がひっついていた。
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