第8話
ここは魔女の森。
人を寄せ付けない魔法がかかっている黒い森。
ルカは迷う事なく出られたでしょうか。
森の奥の奥の深い場所で、僕はいつも通りを過ごしています。
朝露を溶かした蜂蜜酒と風の匂いがいい日に干した無花果を外のテーブルに並べ、グラスを二つ用意します。
そろそろでしょう。
「──はぁいお兄ちゃん。生きてる?」
妹のグレーテです。
僕の勘は当たるようで、帰りを外した事はありません。
緩く太く三つ編みに結んだ茶に近い金色の髪と、姿を隠すマントを
「やぁグレーテ。この通り生きてるよ」
赤い目が、にこ、と笑います。
これは魔女の印です。
僕達はここに住んでいた──今は灰になった魔女に魔法をかけられました。
僕は右手が黒くなる印と、森から出られない呪いを。
妹は目が赤くなる印と、魔女になる呪いを。
僕達が魔女を殺したからです。
「じゃあグレーテ、報告を」
「うん」
テーブルに向かい合わせに座った僕達は両手を握り合い、並べた料理達にも目もくれずに話を始めます。
簡単な事です。
呪いの解き方は見つかったか、そうでないか。
グレーテは何も言いませんでした。
初めてではありません。
僕達は幾度となくこうしてきました。
その度に、願ってきました。
どうか、妹が人間に戻れますように──僕が死んで戻れるなら今すぐにでもそうするのに、と。
けれど、きっとグレーテは許しません。
怒り狂って泣いてしまうでしょう。
「……ふふっ」
「なぁに?」
不思議です。
これまで妹だけを考えてきたのに、もう一人浮かんだのです。
彼は今、どこを歩いているでしょうか。
探せたでしょうか。
幸せを見ているでしょうか。
「……お兄ちゃん、良い事でもあった?」
「うん、とても素敵な事がね。その前に煩い虫をどうにかしないとね。キルシュクーヘン、好きだろう?」
お腹を空かせたグレーテは好物にはしゃぎます。
こういうところは今より半分の年の頃と少しも変わりません。
可愛い、愛しい妹です。
あのねグレーテ、僕を友人と呼んでくれる旅人がいるんだ。
彼は気づいていないようだけれど、小さい子供のように目が綺麗な人なんだ。
君に会いたいそうだよ。
「──さぁ、今日も生きようか」
ルカっていう、僕の友人なんだ。
CAKE CAKE 雨玉すもも @amesnow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます