雨の妖精

飛翔

第1話「雨と光」

「スースーはぁ、スースーはぁ」


(……そろそろ折り返すか)


 家を出てから約二十分。


 少し離れた小さな公園まで来たところで折り返しをする。

 何を折り返すって? 折り紙、ではなくランニングの走る方向。


 中学の頃はランニングなんて全くやってなかったのだが、一つ大人に近づくということで何か始めてみようと思い考えついたのがランニング。

 といっても別に太っているわけではないのだが。

 

「ふぅー」


 一呼吸入れてから今来た方向に戻る。

 走る時の呼吸は殆ど決まっている。人によるけど、俺は二回スーッスーッと吸ったあとそれを一気に吐き出す。これを無限に繰り返している。


 今は6月上旬。梅雨の時期だ。お陰で先ほどまで降っていた雨のせいで今も走りずらい道になっている。

 

(梅雨が好きなやつの気がしれない)

 

 まず雨の日が多いから傘を持たなければならない。この時点でだるいポイント100。傘って意外と荷物になるから本当に嫌だ。

 だからといって折り畳み傘を持っていると、使った後の処理が面倒。あと小さい。

 他にも湿度が高いだの自分はつけていないが眼鏡が曇るだのがあるが今回は走ってる最中だし考えると疲れるからカット。

 

 とにかく梅雨はだるい。




 今の時刻は23時。夜中だ。走る道は全て闇に染まっている。ゆえに水溜りがどこにあるかすら分からない。

 だから足は常に終わってる。


 でも、その闇の中から突然視界に入ってきた。


 それは公園にあるベンチに腰掛ける少女。


 まるで妖精のように周りには光が集まっている。今すぐにでもどこかに飛んでいきそうなくらいだ。


(羽は………流石に無いよな)


 ついつい目が止まってしまうほど幻想的。

 だから俺が走りをやめ、自然と近寄っていってしまうのは仕方ないこと。


「っ!」


(この子、ずぶ濡れじゃないか)


 少し近くに来てみたら、さっきの幻想はどこえやら。

 光って見えた真相はあまりにも簡単なものだった。


 また、遠目で見たよりかなり大人っぽく見える。


「あのー、この夜遅くに何やってるの?」


 同情からか、はたまた下心からか。分からないが声をかけてしまう。


 女性は声のした方に顔をあげる。


「……………………高校生」


「え?」


「……高校生?」


「はい」


「じゃあ年下だ」


 マウント取ってきた。


「ということは、大学生ですか?」


「…………君にはどう見える?」


「若いお姉さん」


「…………………」


「え?」


 黙り込んでしまった。


「…………君は面白い子だね」


「?」


 何が?

 今の会話のどこが面白いの?


「ふふっ、分かってないよね。今の質問さ、普通の子は流れ的に大学生か社会人かを答えるの」


「では僕は普通の子では無いと?」


「まず下心からか同情からなのかは分からないけど、この真夜中の公園にいる他人に話しかけてる時点で普通じゃないよ」


「外にいる時点でそうかもしれない」


「ふっ、確かにっ」


 そう言いながら楽しそうにケタケタ笑う。


 真夜中に一人で公園にいるから親と喧嘩でもしたのかと思ったけど、そんなことはないらしい。


「で、どっちなの?」


「下心か同情か?」


「そう」


 自分でもはっきり分からない。

 でも俺はこの人に魅了された。


 なのでどちらかというと、


「下心ですね」


「し、正直だね」


「隠しても隠さなくても何も変わらんでしょ」


 それが真実だから仕方ない。


「いや印象は変わるよ?」


「俺細かいことは気にしないので。ところで何故びしょ濡れのままここに?」


 俺は雨が嫌いなのでわざと雨に濡れることなんて絶対ない。


(雨なんか家のシャワーで浴びれる。ほんと迷惑な自然現象だ)


「……………………」


「?」


 女性が少し不満気な顔で答える。


「私は……………夜の雨が好きだから」




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雨の妖精 飛翔 @riku789

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