103 「ヒコーキ」が「興行」だという感覚。③

 前回名前が出ました『飛行機物語』は、筑摩書房の『稲垣足穂全集 六』に収録されておりますので、国会図書館デジタルコレクションを頼らなくてもテキストは読めるのですが、図版、写真は再録されていない部分がありますので、デジコレで補いながら読むのが正解なのかと思います。


 しかしですねえ、この『飛行機物語』、戦時中の戦争協力の問題がありまして。

 足穂に限らずいろんな作家のいろんな作品がそうして微妙な存在になってますけれども、この全集の月報ではこんな解説がされていますね。


〈【飛行機物語】戦時下の昭和18年、タルホは青少年のための読み物としてこの『空の日本 飛行機物語』を書きました。若い人たちにも簡単に理解できるような文章で綴られています。この翌年にも同様の趣旨で出版された『星の学者』という本があります。戦争とタルホ文学との接点は、この2冊に限られました。別の表現をすれば、もし戦争がなければこの2冊がこのような形で書かれることはなかったはずです。それゆえ、作者自身もこの2冊については多くを語りませんでした。(後略)「月報6」〉


 稲垣足穂といえば、貧困生活をかえって独自の精神生活の場にした、みたいな、浮世離れした奇人イメージが付いて回りますけれども、私ねえ、まだ仮説なんですけど、それって昭和三十年代から四十年代のマスコミと文化人が創った面が大きくないかと疑ってまして。となれば本人もそれに乗っかった面がありますけれども。

 もともと作品に韜晦の味があるし、流布しているイメージを信じては作品自体を読み違えてしまうんじゃないかなあ。たとえば本作『飛行機物語』のような戦時中の一市民としての仕事ですとか、極私的な家族史を書いた作品ですとか。そんな気がしています。


 なんか、テーマが大きくなって扱いきれなくなるんじゃないかと心配しながら、またお時間をいただきます。続きます。

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