80 開高健『日本人の遊び場』④

 さて、ナイター映画です。

 前回までお話ししましたように、私はナイター映画はそんなに悪いものじゃなかったという話をされていたので、そういうバイアスで読んでいたのでした。「低能映画」はないよなあ。


 しかし、開高健の映画館の描写はここでは終わりません。

 ここから先が、土地柄というかそういう違いがある部分でした。


〈便所へいこうと思って廊下へでたら、ここで目をみはらされた。綿やバネのとびだしたソファに若者たちが大の字なりにころがって眠りこけているのだ。目を薄くひらいたまま眠っているものあれば、口をひらきっぱなしにして眠っているのもある。一人、二人という数じゃない。いたるところでゴロゴロと、まるで朝の魚河岸のマグロみたいにころがっているのだ。〉


 二階に上がれば途中の階段の踊り場で新聞を敷いて眠っているものまでいたというのです!


〈川崎は土地柄である。キャバレーが七軒あって、ホステスは千五百人見当。酒場のバーテンダーやらホステスは七百人から八百人いる。そこへかよう町工場や大工場や中小商店の兄さんとおっさんたちはちょっとでも女にモテたいものだと考える。〉


 そして何をするのかというと、なじみのホステスを数名連れ出し、映画館へ行きます。


〈そして、入場料をまとめて気前よく払ってやり、自分はどうするかというと、映画館には入らないで、じゃ、アバヨ、といって帰るのである。兄さんはそれが気風の見せ所だと思っている。〝きれいな遊び〟とはそういうものなのだとひとり合点している。このあたりではそういうのがきれいな遊びだということになっているらしいのである。〉


 私の地元のナイター上映を企画した先輩たちは、夜職のみなさんの職場近くの映画館で、夜職の人たちのために、という理由も少しあったと聞いているので、多分寝ていた人がいたとしてもここ川崎の映画館とはちょっと事情が違ったろうなと思うのです。

 で、こうしてモテたいと思っているお兄さんみたいな人はいたのかなあ。

 最初持っていたバイアスが読書の補助線となって、面白くなってきました。


 続きます。

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