81 開高健『日本人の遊び場』⑤
川崎のお兄さんがホステスに深夜映画を奢る、という、土地ならではの模様が前回描写されました。
では、ほかの土地ではどうなのでしょうか。
〈新宿ではいまのところヒカリ座だけが徹夜興行をしているが、ここの客は川崎とちがって工員は少なく、むしろ圧倒的に付近の酒場やキャバレーなどのバーテンダー、ボーイ、ホステスたちである。〉
どんな映画がウケるかというと、この新宿では最近では化猫映画強力三本立が一番ウケたそうですが、だいたい何をかけてもウケるということです。この取材当時かかっていたのは『禁じられたセクシー』と『ハイ・ヌーン』という、前者は国のナイトスポットの観光映画、後者は西部劇です。
〈これが川崎では、支配人がハッキリと、うちは活劇か喜劇でないとダメだといいきっていた。たったいまウトウト居眠りしてどの場面を見ても前後の脈絡なしにたのしめるどんどんパチパチか、ゲラゲラ笑いかどちらかである。それだけ酒場のバーテンダーと京浜工業地帯の労働者とでは体の疲労がちがうのだということなのかもしれない。〉
なるほどです。
〈中野大栄では七月に『人間の条件(ママ)』をやった。一部から六部まで全編ぶっとおりで、翌朝の八時ごろになってやっと完了という荒業で、客の方も座ぶとんかかえてくる人があった。三百六十の定席が前売りでたちまち売切れ、二百人ほどがハミだして入場できないほどだった。〉
『人間の條件』、私は週替わり上映を見たことがあります。それでも結構内容が内容ですしきつかったんですがオールナイト一挙上映ですか(驚)
〈入場料も安かった。百五十エンである。映画館はすっかり悦に入り、この夏にもう一回『人間の条件』を徹夜でやろうと考えている。〉
いやはや、すごいなあ。
続けて開高は、深夜興行を打たなければならない映画館の事情に切り込んでいきます。
続きます。
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