65 カバヤ文庫のはなし。⑪
「婦人とこども大博覧会」。その記念誌によると、何度か会場にカバヤを含む各社のキャラメルのパラシュートが降って、子供たちへのプレゼントになったそうです。
著者はこう評します。
〈こうしてキャラメルのパラシュートの記事を並べてみると、さきほど紹介したいかめしい博覧会の意図が、いささか滑稽味を帯びないだろうか。ぼくには、空から降ってくるキャラメルを奪い合っている子供たちの、いきいきとした群像が目に浮かぶ。それは、甘いキャラメルを求める子供たちの欲望と、そのキャラメルを売ろうとする製菓会社の商魂とが作り出した光景だが、この光景は、いかにもその時代のものであった。〉
昭和二十年代は「キャラメルの時代」であったと言われたほどにキャラメル全盛の時代だった、と、カバヤ食品の『会社案内』には記されているそうです。五十社を超すキャラメルメーカーとの販売合戦を、カバヤ食品は生き抜いてきたと。
〈その販売合戦の熾烈さについては、開高健の小説「巨人と玩具」(昭和32年)に描かれているが、博覧会のパラシュート合戦も、その一端であったと言えるだろう。〉
「巨人と玩具」は増村保造監督で昭和33年に映画化もされているので、見たいなあと思っていたのですが、ここで紹介されるということは、小説のほうも相当な戦いが描かれているのでしょうね。ちなみに映画の方は川口浩と野添ひとみ、伊藤雄之助が出演しています。
あれ。本稿は川口浩に縁がありますね(笑)
(【参考】49 【余談】昔は〈映画化〉したもんだ。⑤幸田文『おとうと』https://kakuyomu.jp/works/16816700426989514413/episodes/16817330664029475795)
〈文庫引き換えカードに懸賞がついていたことはさきに述べたが、実は、この博覧会の入場券にも懸賞がついていた。大人券の特等は百万円または自動車、二等は二十万円、ピアノ、オートバイのどれか、三等が家庭用ミシンであった。(中略)小人および中高校生券には、
特等 奨学資金十万円
一等 高級写真機または電蓄
二等 高級自転車(二十四インチ)
三等 高級腕時計
四等 昆虫採集セット・写生セット・野球グローブ・姫鏡台
五等 万年筆またはシャープペンシル
六等 野球バットまたはピンポン用具〉
カバヤキャラメルの懸賞にも似た傾向の賞品です。
〈ともあれ、こうした懸賞や抽籤が示しているように、多くの人々にとって、生活物資はまだ豊かではなかった。子供たちは子供たちで、甘い菓子、とりわけキャラメルへの欲望をかくそうとはしなかった。そしてまた本に対する欲望も。〉
博覧会では、子供たちに絵本を贈呈するイベントもありにぎわったということです。
〈博覧会のテレビ館では、試験電波が受像され、子供たちの人気を集めていた。それは、やがて来るテレビ時代を予告する光景であったが、しかし、時代はまだ〝キャラメル時代〟。その〝キャラメル時代〟の最後の輝きが、この博覧会が終了して間もなく発刊された「カバヤ文庫」ではないだろうか。〉
いよいよ、「カバヤ文庫」が登場します。
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