52 作者の都合。『都新聞版 大菩薩峠』①
いろんな場で何度か中里介山『都新聞版 大菩薩峠』において、
〈連載中に時代設定が作者の都合で変わる〉!
この衝撃についてお話しいたしましたが、これ、そろそろちゃんと紹介してもいいですねそういえば。
大正二年から昭和十六年まで媒体を変えながら書き続け、未完となりました『大菩薩峠』。都新聞版も、ちくま文庫版など現在読める版も、冒頭の筋は同じです。
大菩薩峠を歩いていた老巡礼と孫娘。
そこに一人の侍が声をかけてきて、いきなり孫娘の目の前で老巡礼を斬り殺します。
この侍が、魔剣「音無しの構え」をふるう机竜之助です。理由なき殺人、婦女の拐かしを重ねて、虚無の心は血を求めてさまようのでした。
今、私たちが読める『大菩薩峠』は、ふんわりと幕末が舞台、となっています。いつかはしらないけど、あのへん、くらいの。
が、「都新聞」の連載当時の版ですと、はっきりと〈ことし天保十三年は〉と記されているのです(第二十五回)。1842年。机龍之助が御前試合で邪剣をふるい、宇津木文之丞を惨殺してその妻、お浜を奪い、出奔します。そして文之丞の弟、宇津木兵馬は龍之助を兄の敵と、追うのでした。
で、そのあと第八十七回で新徴組が登場して、ちゃっかり龍之助は混ざってうろうろしているのですよ。
しかし新徴組の登場は史実では文久三年。1863年。そのとき机龍之助三十三歳、兵馬は十七歳と。おいおい御前試合のときこの二人いくつだったんだよ! 突っ込みたい読者があらためて書き出しを読み返すと、作者はこのように書いています。
〈考証を抜きに、今まで書いた時代を暫く離れて、机龍之助は三十三歳、宇津木兵馬は十七歳として、外からは黒船、内には尊王攘夷、加うるに徳川幕府の
ここからは考証を抜きに、幕末で登場人物はこの年齢で、そう思って読んでくれ!
なんと乱暴な話でしょうか。ネット小説でも途中で間違ったからといって、ここまでしませんよね! 新聞小説は連載中修正できないからって許されたんですかね。
ちょっと長くなったので続きますね。
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