45 旅と体調:内田百閒『阿房列車』⑤
前回の分院へ到着する前に、おそらく自分はペニシリンの注射を受けることになるだろう、と、先生は静かに観念しています。よく効くという第一回目をとっておいたが、いよいよか。と。
車の中で検温すると、熱は七度四分に下がっています。これまでアスピリンと氷手拭いだけの処置でした。
まだ先生は朦朧としています。山系くんが奔走して天王寺の本院の受付も済みました。いよいよ医師と婦長とが現れ、診察開始です。ここまでいろいろ大変でした。山系くんもよく働いてくれました。
しかし。
〈婦長が私に言った。お熱は六度四分です。〉
ようやく診察のタイミングで熱、下がってました(笑)注射の心の準備もしたのに(笑)
〈何だか恥ずかしくなって、きまりが悪くて、私を取り巻く様に立っている二三人の看護婦達に合わす顔もない。どこと云って苦しくはない六度四分の患者が、早朝の時間外に病院を騒がし、大変らしく医者の手当を受けようとしている。昨夜だか今暁だかの高熱が、そんなに下がってまあよかったと思うよりも、この場のてれ臭さの方が先に立ち、何と挨拶をして逃げ出そうかと云う、そのきっかけを苦慮した。〉
ともあれ、先生が回復できてよかったです。
旅先で体調を崩した話なのに、いつもの阿房列車になっています。この回も、とても好きです。
みなさんも体調には気を付けましょう!
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