29 旅と食事:内田百閒『阿房列車』②

 前回のコメント欄に、引用しようと思っていたアイスクリームのところをいただきました。ありがとうございます! 

 山陽本線車中で百閒先生が、朝食で食堂車に行くのがめんどくさい。ボイにアイスクリームと珈琲とトーストを持ってこさせます。

 先生、アイスクリームを二つ食べ、ひとつはヒマラヤ山系くんに、と考えていましたが、こんなやり取りになりました。新潮文庫から引用します。


〈アイスクリームは断じて食べないのだね。食べたくありません。〉


 ヒマラヤ山系くんの対応が塩(笑)


 ここが一番忘れられない箇所だったのですが、朝からアイスクリームを三つ食べることになった先生の顛末はこんなです。


〈三つ目の半ば頃になると、口の中がしびれて、舌に感覚が無くなり、匙でしゃくって入れても、溶けてのどを流れるところしか感じない。味も解らず、特に冷たいと云う事もない。初めの内は冷たいのがすがすがしい気持ちであったが、もう何ともない。そうして余りいい気持ではなくなった。少し頭痛がする様でもある。〉


 ひどいことになりました(笑)


〈(……)兎に角我慢して三つ目を綺麗に片付けた。第一、山系の前で残したりしては沽券にかかわる。冷え切った口で煙草を吸い、暫くそうしていたら、しびれが取れてもと通りになり、頭痛もなおった。〉


 沽券にかかわるところ、なんとかなってよかったです(笑)


 しかし、なんともリアルなアイスクリーム食べ過ぎの描写です。かき氷が冷たくて頭が痛い時もこの箇所、思い出しそうです。

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