3 昔は〈映画化〉したもんだ。②素九鬼子『旅の重さ』

 2でおはなしした映画の上映会では、斎藤耕一監督の『旅の重さ』(1972年)も観ました。

 家出少女の四国放浪。風景の自然と、少女の自然=生と性が叙情的に描かれてこころ引かれました。

 それで原作者である素九鬼子もとくきこを知り、読んでみたのですが。


 文学少女っぽい甘さがかえって魅力となっている、一人称の書簡体小説でした。なんだか引き込まれて読んでしまう。

 そしてさらにわかったことには、『旅の重さ』(1972年)、そもそも出版の経緯がすごかった。


●素九鬼子、芥川賞作家でもある由起しげ子にノートに書いた自作を送る→由起しげ子先生、病没→遺品整理で素九鬼子の原稿が見つかり、本人に無断で出版。


 乱暴な(笑)ちなみに筑摩書房です。

 でも、先に書いたようにとても魅力があるので、何か勢いがついてしまったのでしょうか。昭和の40年代って、ゴリゴリの〈女流作家〉が何かと注目されてましたし。


 それにしても、無断で出版してその年に映画化ってどうなっていたのでしょうか、業界。


 ちなみに素九鬼子は、こののち『パーマネントブルー』(1974年)で直木賞候補、1976年映画化。

 ほか『大地の子守唄』(1975年)が1976年映画化、『鬼の子ろろ』(1977年)『さよならのサーカス』(1977年)、『烏女』(1977年)で一旦執筆活動を休止します。

 復帰作『冥土の季節』(2015年)、アルチュール・ランボーに寄せた『砂漠』(2019年)が最後の著書になるのでしょうか。漂泊と生が印象に残る作品群でした。とはいえ『冥土の季節』と『砂漠』は読みかけなのでごめんなさい。


 読んだ範囲では、『大地の子守唄』、『鬼の子ろろ』が好きです。『鬼の子ろろ』、ジ〇リとかでアニメ化しないかなあ。

『烏女』、農村地帯住まいの主婦の性と生きざまが清々しいのですが、なんとなく当時のにっかつロマンポルノ味があり(爆)、そこ含め面白いなあと思います。


 それにしても、昔の映画化の勢いすごいですね。

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