4 昔は〈映画化〉したもんだ。③由起しげ子『女中ッ子』

 素九鬼子の回で由起しげ子の名前が出たので、今回は由起しげ子です。

 ちなみにその前回、お名前間違えてましてすみません。由〈起〉です。気を付けます。さっそくやらかした。


 なじみのない作家ばかりですみませんが、〈昔の映画の原作者〉から何か読んでみようと思うと、大抵そういう感じになります。

 そして、それらはだいたい当時のベストセラーだったりします。


 数十年前は、映画化されるほど人気があったのに。


 なんだか儚い気持ちになったりしますが、まあ、それは早合点で、それが〈その時代の人々に求められ、それに応えた作品〉というものです。


『女中ッ子』。

 東京の加治木かじき家を、女中になるため山形から少女、織本初おりもと はつがやって来ます。初日にパチンコ(作中では〈石はじき〉)で自分を襲撃してきた勝見坊っちゃんの姿に、亡くなったきかんぼの弟を連想します。

 加治木家はお金持ちで三人の子供がいます。問題児扱いされている次男坊の勝見はこっそり飼っている捨て犬を初だけに見せ、二人の心の交流が始まるのですが、他の女中や家族は、働き者で東北訛りがある初をバカにします。

 勝見は事情があり家族の中でのけものにされているようでした。初は家族の誰も見に来ない秋の運動会で勝見といっしょに走り、一着になります。

 初の帰省中に、勝見が飼っていた犬が棄てられます。抗議も聞き入れられなかった勝見は引き出しからお金を抜いて、学校へ行くふりをして山形へ向かうのですが……


 原作は短編なのですが裕福な家庭のいびつさの中に、ふわりと妖精のように初が来て、何かを変えて、温かいものを残しながらもさみしく去っていく。心の機微が丁寧に描かれ、洗練された印象もあります。


 1954年の映画では、初の故郷が秋田に変更され、ナマハゲが出ていました。

 勝見が秋田の小正月を過ごす場面がかなり長く、秋田の風景や風習が、少年の心をなぐさめていました。


 そもそもこれ、短編の映画化なのですが、142分あるんですよね。短編の丁寧さに負けないきめこまやかな演出で、見ごたえあります。


 さて由起しげ子、ちなみにほかの映画化作品はこの通りです。


●『女中ッ子』(1954年)(1955年映画化。1976年『どんぐりッ子』として再度映画化)

●『今日のいのち』(1956年)(1957年映画化)

●『試験別居』(1958年)(1959年映画化。映画化タイトル『女ごころ』)

●『赤坂の姉妹』(1960年)(1960年映画化。映画化タイトル『赤坂の姉妹より 夜の肌』)

●『罪と愛』(1961年)(1963年映画化。映画化タイトル『あの人はいま』)

●『ヒマワリさん』(1958年)(1965年映画化タイトル『明日は咲こう花咲こう』)


 ベストセラー作家なので、たくさん作品があるのですが、『女中ッ子』と『本の話』しか読んだことがなく面目ないです。

 映画も『女中ッ子』しかみたことないなあ。こんなに映画化されていたのかー。


参考:『芥川賞全集 4』1982年 文藝春秋社(「本の話」収録)

『百年文庫25 雪』2010年 ポプラ社(「女中ッ子」収録)

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