第32話 保健所での地域医療研修

 地域医療研修は、保健所の受け入れの問題で同期全員が保健所での研修を受けれたわけではなく、保健所で研修を受けた人と、地域のクリニックや老健などで研修を受けた人がいた。私はラッキーにも保健所での1か月間の研修を受けることができた。


 地元の保健所では同時期に、国立病院から2名の研修医も受け入れ、3人での研修となった。保健所の仕事は多岐にわたり、地域の公衆衛生を守る、という意味で縁の下の力持ち(COVID-19では、矢面に立たされ、本当に現場は大変だと思う)の存在で、いろいろな経験ができた。覚えているところでは病院の監査について行ったり、結核の患者さんを保健師さんと一緒に結核病棟のある病院へ連れて行ったりなどがある。研修期間が1ヶ月なので、多岐にわたる保健所の仕事のそれぞれをちらっと見て、その日の日報を提出してその日は修了、という感じの研修だった。研修中は深刻な病気の流行などはなく、平和な日々だったので、17時で基本的に仕事が終了、というのはお役所らしいなぁ、と思った(今のご時世では考えられない、というより、研修を受け入れる余裕もないであろう)。その分、早く帰れるので、太郎ちゃんの沐浴などのお世話に時間を割くことができた。


 国立病院から来た2人の先生は、男性と女性の先生で、整形外科志望の男性の先生は少し軽い感じの雰囲気、消化器内科志望の女性の先生は、凜として、でも華のある雰囲気だった。


 空き時間にはよく雑談をしていたのだが、女性の先生が、お父様の書斎についてお話をされていたことを覚えている。お父さんもお医者さんだそうで、書斎にはどっしりとした木の机と、大きな椅子、本棚にはたくさんの医学書が並んでいる、とお話しされていた。

 私の実家は4畳半、6畳、6畳、台所という造りの2階建て長屋に家族5人で暮らしていて、「父の書斎」なんてものを置くスペースはなかった。広さでいうと、学生時代に暮らしていたアパートの方がはるかに自分用のスペースが大きく、また、私が実家に帰るともう私には実家で寝るスペースがなくなっていた。私自身も、現在持ち家だが自分用の書斎を持っているわけではなく、仕事はダイニングに置いている「夏は座卓、冬は炬燵」という我が家のメインテーブルで、子供たちがワイワイ騒いでいる横で行なっている。だから、そのように立派な「父の書斎」があるなんて、どんな上流階級のお嬢様なんだろう、と驚いたことを覚えている(確かに優しくて、気品のある人だったと記憶している)。


 今は高校生、中学生になった我が家の太郎君、次郎君も勉強は私と同じようにメインテーブルで行なっているので、基本的に家族4人、寝るとき以外は大体ダイニングで過ごしている。


 書斎があるような高級な家庭ではないが、お互い顔を合わせて生活するのも悪くはないと思っている。

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