第15話 思わぬつながり
鳥端先生がお見えになり、鳥端先生もER当直に入られるようになった。鳥端先生は、フレンドリーでアニキ肌、ハンサムな方で、患者さんだけでなくスタッフみんな、男性からも女性からも頼りにされていた。先生は、初期研修医の僕らにも積極的にかかわりを持ってくださった。僕は周りより少し年を取っていて、妻帯者でもあり、体力もなかったのでお付き合いすることが少なかったのだが、若い同期は、飲みに連れて行ってもらったり、先生のご自宅でお母様の手料理をごちそうになったりと、本当にお世話になったようで、みんな鳥端先生を「アニキ、アニキ」と慕っていた。また、中堅クラスの先生方も、鳥端先生が外科で修業中の時の後輩にあたるので、やはり「アニキ」と慕っていた。
ある日のER当直で、僕と鳥端先生がご一緒させてもらうことがあった。研修医の中でも少し年を取っている私なので、鳥端先生も気を遣って、
「保谷先生、出身はどちらの高校ですか」
と空き時間に声をかけてくださった。僕の出身高校は僕が在籍当時、学区で2番手の進学校だった。実は1番手の高校と2番手の高校には大きな差があって、1番手の高校の優秀な人はとんでもなく優秀なのだが(つまり、青天井)、2番手の高校には、そういう人はほとんどおらず(当然そういう人は1番手の高校に行くので)、みんなそれなりに優秀だけど、まぁそれなり、というわけである。
制服もなく自由な校風で、楽しい3年間を過ごしたのはいい思い出なのだが、医学部に進学できるのは学年でも数人足らず、という感じなのである。鳥端先生に出身高校を聞かれて、
「先生はご存じないかもしれませんが、○△高校です」
と答えると、
「えっ、僕も○△高校ですよ」
と鳥端先生が答えられた。○△という地名のついた高校はいくつかあるので、
「いえ、先生、僕は府立○△高校です」
とお伝えすると、
「保谷先生、僕も府立○△高校です」
とおっしゃられる。
「保谷先生は何期生ですか?」
と問われたので、
「☆□期です」
と答えると、鳥端先生は
「え~っ!僕は☆□+1期です」
とのこと。なんと立派な鳥端先生は、高校時代は自分の後輩にあたるのであった。お互いに大変驚いた。そのあと、鳥端先生のお話を伺うと、中学、高校時代はその学区の地域におられたことなどいろいろ教えてくださった。高校時代は私が1年先輩、医者としては鳥端先生が8年先輩となることが分かった。高校のレベルを考えると鳥端先生は本当に高校時代一生懸命勉強されて、おそらく学年トップの成績を取られていたのだと思う(そうでなけれければ、うちの高校から現役で国立の医学部には入れない)。しかし、超進学校でもない同じ高校の人が、医師として同じ職場で働くことになるなんて、すごい奇跡だなぁ、と僕は本当に驚いた。
高校で1年先輩だから、と言って医師としては大先輩になることには変わりなく、それまでと同様に、
「鳥端先生、コンサルトお願いします」
「鳥端先生、先ほど診察した患者さん、診察や検査の結果からは帰宅可能と思いますが、確認をお願いします(初期研修必修化となってから、ERでは初期研修医は上級医の許可がなければ患者を帰宅させてはいけないことになった)」
とこれまでと変わらず上級医として接していた。ただ、鳥端先生はずいぶん私に気を遣ってくださったようで、他の研修医(初期、後期研修医に変わりなく)にはフランクにお話しされるのだが、私には敬語を使ってくださり、
「先生、このアセスメントで大丈夫です」
「先生、このアセスメントでは、この点が抜けていると思うので、もう一度診察しなおしてくださいますか?」
と気を遣ってくださった。何とも不思議な気分であるが、同じ高校出身の医師と働く機会があるとは全く思っていなかったので、大変驚いた。世間は広いようで狭いものである。
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