第4話 誰がどこを回る?

 新年度になり、初めて全国から集まった同期のみんなと顔合わせをした。定員は10人のはずだったのだが、集まったのは男性が7人、女性が2人の9人だった(お察しください)。

 研修委員長の狩野先生(以下、師匠と呼ぶことにする)を中心にテーブルを囲んで、お互いに出身大学と名前を名乗り、自己紹介をした。僕のほかに、かわいいアニメ声の篠宮さん(シノちゃん)、もう一人の女性佐藤さん、白井先生の後輩で軽いノリの玉井君(タマゴン)、白井先生の後輩で生真面目な川淵君(ぶっちゃん)、さわやかな好青年の新竹君(タケ)、ラグビー部のがっちりした山村君、別大学のラグビー部だった好青年の窪園君(窪ちゃん)、強面の柔道の達人、濱口君(はまやん)がいた。タマゴンはノリは軽いが、とても頭の回転が速い。回転の速さを鼻にかけるわけではなく、当意即妙の発言で場を盛り上げ、シノちゃんをいじってはシノちゃんを「もう、タマゴン!」と困らせていた。困っているシノちゃんはちょっとかわいい。   

 タケ、窪ちゃん、はまやんはご実家がお医者さんだった。はまやんはご実家を継ぐために医学部に入学したそうだが、

 「自分の人生を見つめなおしたい」

 と数年間休学し、大型トラックのドライバーとして、全国各地を走り回ったことがあるそうだ。柔道部の部長もしていたそうで、筋骨隆々、パッと見た目には医者には見えない。深夜のERで、大声を出して人を威嚇するような人たちも、はまやんが出ていくと、もにょもにょと言って去っていくほどであり、本当に何度もぼくらは彼に助けてもらった。

 

 タマゴン、ぶっちゃんは背が高く、師匠も白井先生も背が高い。(4人とも180cmを越えている)。入職後、電子カルテの周りでショートカンファレンスをするときには、160cm足らずの僕は埋もれてしまうほどだった。また、この個性的な九田記念病院に2人も女性が来たことにも驚いた。みんないろいろな思いをもってここに集ったのである。


 僕らの頃の1年次のプログラムは、内科4か月、外科4か月、産婦人科2か月、ER 2か月となっていた。それに加えて、3~4日に1回、夜間のER当直が回ってくる。夜間のERでは、自分がどの科をローテートしているかに関係なく、すべての診療科の患者さんを診察することになっている。夜間のERは、後期研修医と初期研修医で編成されており、入院が必要な患者さんについては各科の当直医を呼ぶことになっている。


 とりあえず、そのようなプログラムになっているのだが、9人が一度に同じ診療科に行くことは不可能なので、それぞれ、どの診療科からスタートするのか、あらかじめ9パターンのプログラムを用意してくださっていた。あとは僕らの希望とくじ引きで、自分がどのプログラムを選択するのかを決めることになった。みんなで相談し、比較的すんなりどのプログラムに行くのかは決まった。僕は、内科4か月、ER 2か月、外科 最初の2か月、産婦人科 2か月、外科 残りの2か月というスケジュールとなった。

 

 自分たちのプログラムが決まったが、それですぐに医師の仕事を始められる、というわけではない。医師の仕事をするためには、厚生労働省の「医籍」に登録されなくてはいけない。国家試験に合格していても、医籍に登録されずに医業を行なうと医師法違反になる。国家試験合格を確認したのと同時に、大学があった街の保健所に行き、医籍に登録するための手続きを行なった。登録料は6万円。手持ちのお金をかき集めて、何とか支払った。しかし、初顔合わせの時点では、厚生労働省から「医籍」に登録しました、という連絡がまだ届いていなかった。例年、手続きをしてから約2か月、ちょうど仕事始めから2週間後くらいに、厚生労働省から「医籍」に登録しました、という連絡と自分の医籍番号がはがきで通知されるらしい。その通知を病院に提出して、病院が保険医登録の手続きをしてくれて、初めて医業が行えるのである。なので、通知が届き、手続きが済むまでは、いわゆる「オリエンテーション」の期間に充てられ、電子カルテの使い方の講習や、顔見せを兼ねた各部門への挨拶と見学など、この期間は9人全員で行動した。誰が言い始めたのか、

 「多分、9人全員で動けるのはこの時期しかないから、一度みんなで同期飲み会をしよう」

 ということになった。


 僕はお酒には弱いので、すぐ酔っ払って、彼らとどんな話をしたのか、次の日には忘れてしまっていたが、楽しい飲み会だったことは覚えている。


 オリエンテーションも終わりになるころ、それぞれのところに厚生労働省から通知が届くようになった。

 「昨日来たよ」

 「えぇ~、俺まだやねんけど・・」

 と言葉が飛び交っていたが、数日で全員に通知が届いた。やはり、古くから研修医を受け入れている病院、スケジュールの組み方もうまくできているなぁ、と思った。

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