第3話 この日常を

 今日もすべての授業をこなして、俺たちは学校の最寄り駅を目指して歩いている。コートのポケットに入っているホッカイロは両方とも冷たくなっていた。


「お前、絶対自分の意志をまげるんじゃねぇぞ。世間や時代に流されるな。自分の中に確固たる信念をもてっ!」


 江本は今日一日中こんな調子だ。

 ネット小説の流行傾向を知ったぐらいで、よくそこまで熱くなれるなと思う。

 何が流行っていようがどうでもいいじゃないか。というか、流行に反発的な感情を抱く時点で、それはもうある意味で流行に流されているんじゃないだろうか。


「おっさんかよ」


「おっさんでもなんでもいいっ! Z世代なんていう括りにハメられるよりはおっさんがいいっ!」


「いや、Z世代ってなに?」


「俺に聞くなっ!」


「いや、なんなのお前」


 変な奴だ。でも、変な奴だからこそ素直なんだろうなと思う。

 江本の目はいつもキラキラと輝いている。そして、大概何かに対して怒っている。怒っていると言っても、そこに暴力的な感情は見えなくて、例えるのなら積み木をぶん投げる子供みたいな怒り方だ。


 江本は大げさにため息をつきながら、あーでもないとかこーでもないみたいな事を言いながら、歩くペースをぐんぐん上げていく。仕方ないから俺も早歩き。こういう事も良くあるから、まあなんとも思わない。競歩ペアという競技があるならば、俺たちは割といい成績を残すかもしれない、と江本に影響されたのか、ちょっと変な感想は抱くけど。

 駅に着く頃になると、江本は大分落ち着きを取り戻していた。書店の紙カバーのついた文庫本をニヤニヤしながら黄色い線の内側で読んでいる。情緒不安定かよ、と思うがこれがいつもの江本だった。


 ダイアに乱れは無く、二分後には電車が到着する。

 その電車に乗れば、3駅後に俺が下りて、6駅後にはきっと江本がニヤニヤと歩き読書をしながら降りていくだろう。

 家に着き、飯を食って、眠って、夜を越え、朝が訪れれば土曜日。日曜日が過ぎれば月曜日。きっとそういう風に時が流れていく。


 そう思っていた。



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マジで普通の男子高校生が都合のいい世界に転生したら @hattashingo

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