第2話 俺たちは
江本が語った内容はこうだった。
昨日、ネット小説を初めて読んだ。
投稿サイトのランキングを1位から順番に目を通していった。
内容がどれも同じ様なもの、というか同じものとしか思えなくて「これは現実なのか?」と怖くなった。
どうしようもなくパニックになって俺にラインをかけたが出なかったので、俺の家に行こうと部屋を飛び出した。
冷静に考えたら終電の時間をとっくに過ぎているので諦めた。
仕方なく部屋に戻って、また投稿サイトを見た。
異世界転生、スキル、すぐ主人公を好きになる女、奴隷、チート、その他諸々の都合のいいあれこれ。
それらが概ね受け入れられているレビュー欄。
これが現代の価値観なのかと戦慄した。
「これは電子ドラッグだ。都合のいい設定、展開、キャラクター……あれは物語ではなくて恐ろしくて禍々しい何かだ……」
そう言って、江本は突っ伏した。これ、俺の机なんだけど。
なんというか、江本は疎い。現代の文化全体に対して耐性がない。
SNSのアカウントは多分一個も持っていないし、スマホを使うようになったのも去年の暮ぐらいの事なのだ。
だからこうしていちいちうるさい。何にも知らない。インフルエンサーとインフルエンザの区別もつかない。俺以外の人間には基本的に自分から話しかけたりもしない。
「そんなの結構前からだろ」
俺がそういうと江本は息を吹き返して立ち上がる。
「そういう問題じゃないっ!」
そして何故か怒る。
「じゃあどういう」
「物語って、もっとこうっ、苦くてっ、でも美しくてっ! 苦難の果ての何かっ! 心に響く何かっ! そういうのっ!」
めちゃくちゃ顔に唾を飛ばされる。最悪だ。
リュックからウェットティッシュを取り出す俺に、江本はなおも語り続ける。
「意味ねぇんだよっ! なんの苦労も無くすべてを手に入れるなんてっ! そこにドラマはあるんですかっ! えぇっ?」
俺にブちぎれられても困る。
「そういう時代なんだよ。消費しやすい物だけが生き残る。お前ももう少し世間慣れしないと大学、社会人生活と続いてく人生の中で苦労するぞ。大人になれ、もう少し。インスタのアカウントを作ってエモい写真とエモい文章のストーリーでも投稿してろ」
でもまあ、江本が言っている事もわからなくもない。
いろんなものがつまらない。
物語に限らず、いろいろなものがテンプレの使いまわしみたいに思える。そんな瞬間は山ほどある。
でもさ。
だからといってさ。
俺たちはそんなテンプレの外の世界で生きれるほど特別じゃないんだよ、江本。
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