■ 第12話 またね!(後編)
カケルがセットした3時間終了のアラームが鳴った。
カケルは起き上がると大あくびをしながらアルやリリスの方を見る。
アルは既に起きており、開いた本を何故かじっと見つめている。
リリスは生あくびしながら今起き上がっているところだ。
髪が酷いことになってる。
カケルは目覚まし用のコーラを買って来る!と一旦リリスの家を出て、
近くの自販機からコーラ2本と、アルが炭酸を飲めないとアレだから、
とオレンジジュースも1本買う。
戻ってみると、リリスが興奮していた。
アルが今度こそ帰れる方法を見つけ出したのかも!と喜んでいた。
やはりアルにコーラは刺激が強すぎで、オレンジジュースでよかった。
カケルとリリスはコーラのシュワシュワでしっかり目を覚ました。
カケルがアルに対してどいう方法なのかたずねてみると...
「カケルやリリスと違って私はまだ魚に触れてなかったんだ」とアルは言う。
アルが説明するには泉の中の魚は水の中に居り、アルはさっきまで何度も
自分は魚にタッチしていると思い込んでいたが、実は水の上をタッチしていて
実際は魚には触れていなかったのではないかという。
カケルも「なるほど!」と。
カケルとリリスは木陰とはいえ顔の見えているウサギを指先で直接触る感じ
でやっていた。そう考えると、個人レベルで見えているものを直接触ることで
ダイブできるのだとすると、水に阻まれアルは魚に触れなかった、さっきまで
何度やっても3人のダイブが成功しなかったのがこれで一応だが説明できたの
ではないか。
ただ、アルの顔が少し曇る。
魚が水面にはねてくれない、と。 既にかなりの時間見てるが跳ねてくれない。
千切りパンでも投げて飛びつかせることが来れば楽なのだが、さすがにそういう
ことはできない。本の見開きであり基本は絵の世界である。
要するに、この実験は、ともかくアルに見えている魚が水の上に跳ねるのを
ひたすら待ち続け、跳ねた瞬間に3人で同時にダイブするしかないということ。
それが何時になるのもかわからない ...
持久戦になるな、とスクラムを組んだ3人は覚悟する。
3人が持久戦を覚悟して1時間... 2時間経過...
アルが言うには、魚に殆ど動きはない。
3人は本のページに向かい何時でもPDできる体制を取っていたが...
魚は一向に泉の水の中を気ままに漂っていて跳ねる気配は全くないと言う。
そして3時間が経過...
長時間同じ体制なこともあり3人は疲労を感じるようになった。
ついに時間は午前4時を回り、白々と夜が明けて来た。
「もう夜明けかよ... ネトゲやっててもこんな時間まで起きてないぜ」
カケルが冗談交じりに軽口を言っても誰も反応すらしない。
カケルはこれはまずいな、何とかしないと全員力尽きるぞと思い始めたその時。
「...え... これは...」
アルを見ると何か変化が起きたようだ。
「いや、もう1匹魚が寄ってきたのが見えて...あっ!」
アルのその目の前で起こったのは─── 元からいた魚が水面へと一瞬、
身を躍らせ跳ねたのだった。 歓喜の顔でアルは叫ぶ
「跳ねた! 魚が跳ねた! 次、又来るかもしれない。用意頼む!」
3人の顔に、一気に生気が戻る。
「...なるほど ...たぶん求愛ダンスだな。釣り好きの叔父さんに聞いたことあるぞ」
「何?何が起こったの?」 突然の展開に不思議そうな顔のリリス。
「魚の中には、求愛ダンスと言って、メスが来ると水面を飛んだりして求愛を
アピールする魚がいるって聞いたことがある。餌を取る以外ではそうそう
水面に出てくる魚は居ないからな。」
「なるほどね! 時は来た! アル、指示をお願いね!」
「求愛が叶うと巣に戻って産卵するらしいから、アル、次狙え! 巣に戻られたら
チャンスが無くなる」
「オッケー、今、もう1匹の周りをそいつ回ってるんだわ...」
カケルもリリスも緊張するが、さっきまでと違い希望が出て来たこともあり、
いい意味で精神的に高揚してきた。
「...来そうだ... 来る... 」
ついにこの時が!...カケルとリリスの指先にもつい、力が籠る。
「...来た!飛んだ!! 頼む!!」
ついに魚が川から跳ねあがった。
同時にアルの口からGoサインが出た!!
アルの指が泉から跳ねた魚に向かって伸びる。
カケルとリリスもその声が聞こえた瞬間、ウサギの顔をタッチする。
瞬間、3人は一瞬意識が飛ぶ感じがした。
成功だ!
カケルとリリスはいつもの泉の前に立っていた。
若干遅れて ─── リリスが抱きかかえるように上半身を起こしていた
アルの目が開く。
目をパチクリとさせて、カケルとリリスの顔を見るアル。
「戻って... 来れた...?」
「戻れたようだな。」
「良かったね、アル。もうイタズラしちゃだめよ」
泉の周り、森の木々を大きく首を振り見つめながら立ち上がるアル。
とたんアルは大粒の涙をぶわっと浮かべるとカケルとリリスを振り返る。
「二人ともごめんよー もうイタズラしないからー ホントにごめんよー!」
並んで立つカケルとリリスをに正面から勢い付けて抱き着いていた。
もちろん、そんな勢いで飛び掛かられたらカケルもリリスもどうしようもない。
3人はそのまま後ろの泉に落ちてしまい、ずぶ濡れになってしまった。
「何すんだよアルー」
「全くアルったらー さあ、家に帰ろうよ」
「お前らには本当に、本当に世話になった ─── サンキューな!」
ずぶ濡れのアルはカケルとリリスに感謝のキスの雨を降らせる。
「全く、イタズラもうしねーって言ってこれかよ(笑) さぁ家に帰ろうぜ。アル」
「おお、そうだな! 家に ─── 家に帰れるって、本当にいいな!」
そして。
アルの家に戻った3人はホッとして顔を見合わせた。
こっちに戻ったアルは、やはり向こうの世界で見るアルとは違って見えた。
ただ、それでいい、アルはやっぱりこっちの人間だもんな、とカケルは思う。
アルはリリスの母に最後のお別れが出来なかったことをとても悔やんでいた。
まぁあの状況下だったわけだしな。仕方ないよとカケルはいい、
リリスもアルが感謝してた事をちゃんと言っておく、とアルを慰める。
さて。
今日は予定外でダイブしたこともあり、カケルもリリスも早めに帰る事となった。
泉の前。
もう何もしないとアルは少し離れて笑う。
リリスとカケルも前回の事を思い出し、カケルは思わず咳払い。
そしてカケルはアルに向かってこう言った。
「次来た時は、よければ森の外の世界もそろそろ見てみたいな」
「うん。私も見てみたい」
「おっけー、次は町に買い物でも行ってみるか。お前らの世界と比べたら
たいしたものないかもしれないけどね」
「その時出来る事を、最大限楽しもうぜ、アル」
「アクシデントとはいえ、リリスたちの世界はどうだった?アル」
「全てが違い過ぎて混乱しっぱなしだったよ(笑) 暫くは行かなくていいわ」
その言葉に3人して笑った。
アルに「またね!」と見送られながら...
カケルとリリスは今回は通常の方法で
自分らの世界に戻ってきた。
リリスは「多少時間、経った方がいいよね」
と本を閉じるのは30分後、とスマホでアラームをセット。
計算が正しければ7日ほど経つんだよな。
カケルとリリスは部屋を出て、リリスのお母さんに事情を話した。
リリスの母親は素直に喜んでくれた。
リリスはこの後タイマーが鳴るまでこの台所に居るそうだ。
まぁ、確かに自分の部屋に戻ると速攻、寝てしまいそうだもんな。
カケルはリリスの家を出ると、まだ早朝の6時前だった事もあり、
そこまで暑さは感じなかった。
大きく伸びをするとカケルは家に向かって歩き出した。
カケルは思う。
やっぱり安心して一番ゆっくり寝れるのは、自分の家だよな、と。
アルも今頃、自分の家でゆっくりと寝てるんだろうな。
リリスはもうちょい、決めたアラーム鳴るまで頑張ってくれ。
そしてカケルは家に帰りつくと ───
ベッドに倒れるなり大いびきをかき始めた。
外ではクマゼミが派手に鳴いている。
それはまるで「夏休みでよかったね」と言ってるようにも聞こえた気がした。
(終わり)
Picture Dive! 俺とリリスとアルマイン ~絵本の世界は見えないとこに、知らない話が隠れてる~ 葵 詩安(E) @shiann-ez
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