■ 第11話 繰り返す実験とヒントと(中編)

 ...休憩したところでこの手の実験を繰り返すのならばリリスは

 どんどん不機嫌になっていきそうだ。

 女の子にとってこの実験はさすがに辛い。


 しばらく時間を置くと、今度はアルが言う。

 「今度は3人同時に頭ぶつけてみよう。Wビンタの3人同時頭突き版

  と行こう!」


 カケルがカウントを数え3.2.1 ゼ─── ほぼこの瞬間にアルは

 カケルの頭を引っ張って3人同時に頭突き!

 しかし、やはり何も起こらず。

 それどころか3人はしばし頭を押さえ、のたうち回った。


 更にアルは「こ、こんどは、ゼロのタイミングで、カケルもリリスも

 わ、私の唇にキッスしてみて!そうよ、3人同時、同じタイミングで

 トリプルキッスで今度こそ上手くいく!」

 「3.2.1.ゼ...」 カケルとリリスは指でウサギを指しながらアルの顔に

 突進! だが3人同時のキッスが出来たか出来ないか、次の瞬間、

 カケルもリリスもアルを押し倒すがごとく後ろのテーブルごとひっくり返して

 しまい...  結局、PDどころですらなかった。


 頭を抱える3人。

 アルに至っては3人同時キッスの時勢いでリリスの歯が上唇に

 当たってしまったらしく...

 「ファーストキスを3人でやった上に唇から流血するなんて悲劇だわ」

 とションボリ。


 

 そんな時、リリスの母が夕飯だと階段の下の階から声をかけて来た。

 いろいろ悩みつつ実験を繰り返していたら...

 既に19時を回っていたのだ。


 「気分をリセットしよう、ゴチになる」とカケルは言った。

 「そうね、部屋の外の空気吸った方がよさそう」

 リリスも答えると、アルの手を引き下に降りて行った。



 今日のリリスの家の夕食。今晩の献立は...

 カレー粉をまぶした焼きシャケの切り身 withポテトフライ

  + ご飯 + 豆腐とワカメのすまし汁 

 リリスの母はシャケの匂いがイマイチダメなので、こういう風に

 カレー粉により匂い消しをしながら更に塩コショウで濃い目の味付け

 をしたという。

 

 ちなみにそのカレー粉まぶしの焼きシャケを喰ったアルは味の濃さに

 ビックリしていた。 そして辛さと刺激で大変な口の中を麦茶で

 洗い流しながら、「これ、魚だったのか」と涙目で言うのだった。


 こんな味の濃いものは初めて食べたという。

 そして、その時───

「これ、魚なのか... 魚... ...魚!!」

 アルの頭にふと、何かがフラッシュバックした。


 アルがいきなり立ち上がろうとしたのをカケルは声で制止した。

 「どうかしたのアル?」

 「確認したいことがあるんだ。部屋に戻る」

 「待て待て、まだすぐ結果は出るとは限んないんだ。

  昔の日本のことわざに「腹が減っては戦は出来ぬ」という言葉がある。

  今はしっかり食って、ちゃんと頭に体に栄養回したうえでみんなで

  試そうぜ。俺らはみんなで向こうに戻るんだ、そうだな? リリス。」

 「うん、焦りは禁物。今は落ち着いてまずは食事をしよう」


 アルはカケルとリリスの言葉に頷くと、大人しく椅子に座りなおし、

 食事を再開した。


 ...さすがにアルはカレー焼きシャケは食べることは出来なかったが、

 軽い塩味のポテトフライが大いに気に入り、パクパクと食べ続けた。

 ポテトの表面がカラッと揚がっており、噛むと中からアツアツの柔らかい

 ジャガイモが口の中にホロホロと溶け出す。

 アルにとってこのうすしお味+カリふわはまさに今まで感じたことのない

 食感+味だった。リリスはあまりにアルが喜んで食べるので自分の分の

 ポテトをおかわりに差し出したほど、アルは喜んで食べていた。


 それにプラスで今晩はごはん茶碗半分程のご飯も完食していた。

 更に味噌汁とは違う、澄まし汁の、軽めの出汁の味は非常に美味しくて

 飲みやすいようだ。特にワカメのつるりとした食感と味/香りに感動していた。


 カケルが食べ終わるのをアルは黙って茶を飲みつつ待っていた。

 リリスも食べ終わり、カケルもおかわりを貰ったご飯をかき込み食事終了。             

 さて、とカケルは声を出す。

 「アル、言う事聞いてくれたあありがとう。 さあ、行ってみようか!」

 カケルとアルはリリスの母に「ごちそうさまでした」を言うと立ち上がり、

 再度リリスの部屋に3人は戻るのだった。



 部屋に帰ってきたアルは開口まず言った。

 「魚よ、魚!」

 「え、夕食の魚、まだ食べたかったの?」

 「ち、ちがう、... ええっと...」


 そういうとアルは机の上にある本を手に取ると、本を開いた。

 「カケルやリリスはこの辺の木陰ウサギの口元が動いてるのが見えるっ

  て言ってたよね。私にはそれは見えなかったんだけど、

  わたしにはこの泉の中に... ほら、あそこ」

 そういうとアルは見開きページの、泉の一部を指さした。


 「私にはこっちの泉の中の魚が見えたの。もしかしたら私の言う魚は

  カケルたちには見えないかもしれない。でもね、だからよ。

  私には泉の中の ”このへんに” 魚が動いてるように見えるのよ」

 「つまり...俺らだけに見えるウサギを指で触って向こうに跳ぶみたいに、

  アルも自分にだけ見えるその魚に触れれば、もしかしたら飛べるかも、

  って事か!」

 「うん。ただ私は自分だけでこっちに来たわけじゃないので一人だけじゃ

  飛べないと思う。カケルとリリスの力が必要だと思う。」

  そういうとアルは、泉の魚をじっと見つめた。


 カケルは 「よっしゃあ!新しいヒント、キター!」と叫ぶ!


 「じゃあ早速やってみようぜ。唇キッスはとりあえず置いといて

  自分に見える動物を同時に触ってみようぜ」

 「どうせなら、みんなで手をつないでみる?」とリリス。

 「あ、両方と手をつなぐと真ん中のアルが手を使えなくなるな...

  俺とリリスでアルの首の後ろから肩に手を回して...両方から

  スクラムを組む形にしたらどうだろう?」

 「カケルん、それ三身一体でいいかも!」

 「リリスのママに感謝だな、今晩あの辛い「魚」を食べなかったら、

  きっとこの事には気が付かなかったと思う」

 「よし、じゃアル、こっち着て。俺とリリスの間に」

 「お、おお、頼むわ」

 「今度こそ、帰りたいわねアル」


 3人はテーブル前に並ぶと肩スクラムを組んだ。

 「用意はいいか?」

 「いつでも」 

 「魚はロックオンしてるよ」

 「じゃあ、ダイブカウント始めるぞ。...3.2.1.ゼロ!」

  3人は目的のモノを指さし触った。


 ...! 3人とも触る瞬間、目をとじていた。イケてくれ!と。

 ... ... ... 恐る恐る目を開いてみると... 


 やはりそこはリリスの部屋だった。



 「これもだめかー。行けると思えたんだが」

 「た、タイミングがずれたのかも、もう一回!」

 しかしその後何度か3人はチャレンジするモノの...

 結局何も起こらなかった。


 時間はPM9時を回っていた。

 再度休憩を取ろうという話になり、カケルは自宅に電話をかけると今日は

 友達の家に泊まると言い電話を切った。


 さすがに3人とも疲れており、少し仮眠しようという話になった。

 アルもリリスも横になるとあっという間に寝息を立て始めた。

 カケルは一応3時間、アラームをかけてテーブルの向こうに丸くなって寝た。




 ...アルは夢を見ていた。

 幼き頃、まだ母が生きてた頃。アルがまだ4-5歳の頃だ。

 アルはお昼ご飯に食べたパンの屑が体にいっぱいついているのに気が付き、

 近くの川で払い落とすと、そこに小魚が結構な数寄ってきた。

 アルは楽しくなって、ポケットに残していたパンの一部をちぎっては投げ、を

 何度か繰り返した。そして「最後!」と千切りパンを投げた時───

 その千切りパンに向かって1匹の魚が海面から跳ねて喰いついたのだった。

 手をたたいて喜ぶアル。幼きアルは今は亡き母に、それを伝えに走り出す...



 アルは、目が覚めた。


 こんな時にあんな昔のこと思い出すなんて...

 そう思った瞬間、アルは更にはっとした。

 もう一度、本を開いて見てみる。魚はマイペースに泉の中を動いている。

 そしてアルは呟いた。 


 「...そういうことか! ...もしかして母さんがヒントを...」

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