■ 第10話 アル帰還への模索(前編)
まず、最初に口を開いたのはカケルだった。
リリスといつもどのようにしてアルの居る世界に行っていたかを
見せるという。 机の上にリリスが本を持ってくる。
アルは驚くが、「そう」とカケル。
アルはこの絵本の中の世界の、ここに表示されていないその向こう側
に住んでいる人間なのだと。
本当に本の中の世界なのか、本の空間を抜けた更なる異世界なのかは
よくわからないが、とも付け加える。
正直? なところのアル。 まぁそうなるな...
リリスとカケルは何時ものように本を開き、カケルの右手、
リリスの左手にて同時に動いている(様に見える)木陰ウサギを
触ると飛べる、とアルに話すが、アルにはウサギの口元は全く
動いてるように見えなかった。泉の中に魚が居るのは見えたが。
説明後、実際にカケルとリリスは何時ものように片側の手を取り合い、
残りの手、指先でウサギの口元に触れる。
瞬間、リリスとカケルの体から魂が抜けたように二人は崩れる。
えっ!となるアル。
PDで本来アルの居る世界に出現したカケルとリリス。
そしてそこ場の状況に驚く。
なんとこっちの世界のアルが、意識のない状態で倒れているのだ。
これはやばいとカケル。 え?というリリスの手を取ると
「速攻、帰るぞ! これは急がないとやばい」
カケルたちの世界でも、アルは意識を失ってまるで死人のような
カケルとリリスを見て青くなりただおろおろしているだけだった。
次の瞬間、まずカケル、そして1-2秒後にリリスが意識を戻す。
カケルはアルを見る間も惜しいように本を閉じる。
リリスも、アルも何があったのかとカケルに聞くのだった。
カケルは "これは俺の仮説なんだけど” と前置きしながら話し始めた。
カケルの仮説とは
こっちの世界からアルの居た世界にPDで飛んだ場合、
どうやら向こうにカケルらが出現した時から向こうの時間は動き出し、
アルの世界からこっちの世界に戻ってもまだ向こうの時間は動いている。
向こうの時間を止めるのはこっちの世界に戻って、机の上の本を
「閉じた時」なのではないか、ということだった。
こっちの時間で2時間程PDしているとアルの居る世界では3日程経つ。
こまかいどちらの「程」を省略して、3日という時間を2時間という
時間で計算すると、こちらの時間で1秒につき向こうの世界は6分進む。
カケルたちがこっちに帰って20分後に本を閉じるとして計算すると
1秒=6分x60秒x20分=7200分、これを60分に換算すると120時間、
120時間を24時間で割ってやると5日、となる。
アルがカケル/リリスが帰ってもだいたい数日3-5日位でまた戻って来る
と言ってたのがこれで説明が付くのではないかと。
そして、本を閉じて以降、時間が動いていないと仮定するのは、
カケルとリリスが向こうにとんだ時間+ロスタイム────
(リリスが本を閉じるまでの時間)しかアルの世界が動いてない。
こちらで10年近く流れ続ける時間と度々時間の止まっている世界では
時間の流れが違う、ということで説明が付くのではないか、と
カケルは言うのだった。
アルは勿論、リリスもよくわかんない様子だった。
モチロン、カケルも確証はないがそう思ったので言ってみた。
とにかく簡単に言うと、PDして戻っても本を閉じるまでは
こっちの時間1秒につき向こうの時間は単純計算で6分進んでいる。
アルがこちらに来た時、テーブルから何からひっくり返ったことも
あって「本」もその時に閉じられていたので、アルの世界の時間は
殆ど経っておらず、あの場に倒れていたアルもまだ意識が飛んだ直後
の状態で無事だったという事だ。
つまり、通常のように本を20分、またはそれ以上開けっ放しになっていたら
意識をなくしたアルはそのまま5日とかそれ以上の時間が普通に経つ事となり、
下手したらあの場で餓死、もしくは森の肉食系動物に襲われて ── という
能性もあったと。
最後にカケルは、
「俺らがたぶん、意識みたいな形で飛んでるような世界と思ったので、
まさか向こうの世界でアルの体がそのまま倒れてるとは思わなかった」
と。本気でぞっとしたと話した。
とにかく、思った以上にやばいかもしれない状況に3人は急ごうと決意する。
しかし、そこから進むのは非常に困難を極めたのだった。
まずは、アルがなぜこの世界に来ることになったのかの説明を
求められ、アルは反省を口にしつつも、例のイタズラをリリスと
カケルに(カケルは知っていたが)話さねばならなかったからだ。
前回、カケルとリリスが帰る直前に目をつぶらせ、カケルの頭を
引っ張ってリリスの唇にキッスをさせる。
上手くいけばこれで帰れるかも ♡ とアルは思ったと。
あくまで冗談半分でやったことだと。
アルの目論見通りにカケルとリリスは通常帰還のWビンタをせず戻れた。
だが、カケルとリリスを唇キッスさせたアルは二人がこっちの世界に
飛ぶ瞬間まで二人の頭を攫んでいたことで───
どういう原理かはわからないがこっちに一緒に来てしまった、
という訳だった。
カケルはあの飛ぶ寸前に見たリリスの顔と唇の感触を想いだし照れてる。
リリスは「なんてことをしてくれたの!」 と激怒し部屋を出て行った。
さすがにアルもカケルもリリスにかける言葉が無く...
「困ったな」と、顔を見合わせた。
...10分程経ってリリスは戻ってきた。
とりあえずアルが向こうに帰れるよう、協力すると。
しかしその後もリリスには辛い展開が続く。
向こうからこっちにアルが来たということは、まずはアルによって
行われた向こうでのイタズラの強制キッスを今度はこっちのダイブ法
と組み合わせしながらやる、という実験となる。
テストと称してまた唇キッスをやんなきゃいけない...ゲンナリするリリス。
さすがにカケルも何とも言えない。カケルにとっては女子と唇キッスが
できると男の子にとっては内心嬉しさもあるのだが、さすがにリリスが
ここまであからさまに嫌がってる状態ではこちらもやはりいい気分ではない。
ただ、どうしても今、手がかりがこのやり方しかない。
まずは手をつながずに(向こうの世界からの帰る時はお互いのWビンタ
の同時衝撃で帰るために手はつないでいない)カケルの右手、リリスの
左手でウサギを触るその瞬間にアルが再度二人の頭をつかみ、カケルの
頭を引きずりリリスと無理矢理、唇キッスさせる。
...何も起きず。PDすらできない。
2回目はいつものごとくカケルは左、リリスは右手とつないだ状態で
木陰ウサギを触る瞬間にアルがカケルの頭を引っ張りリリスとキッス。
...今回も何も起こらず。
リリスは見るからに雰囲気がどよーんとしてきている。
さすがにリリスの気分を察し、アルはここで休憩を入れたのだった。
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