■ 第9話 優しい日に忍ぶ恐れと
次の日、金曜日の朝。
リリスが6時の目覚ましで起きると、アルもその音で目を覚ました。
リリスはアルに朝の挨拶をすると、
「こっちは時間いろいろ決まってて、ごめんねー」
朝食後、リリスはアルと共に自室に戻るとテレビをつけ、
「悪いけど、これ見て時間潰してて」と言い、
「つまらなければ、ここ推すと別のチャンネルに代わるから」
とリモコンを教え、その後アルににワイヤレスヘッドホンを
装着させた。
リリスはこの時間(AM7時-9時の間)、2時間ほど夏休みの宿題を
やっているのだ。
旨い事アルはテレビにハマった。 次々とせわしなく誰かが映り
画面が切り変わる。このテレビ画面というものに見入ってしまった。
初めてテレビという存在自体を知ったアルは非常に楽しんでいた。
1時間ほど経ち、休憩を取ったリリスがアルにも麦茶を持ってきた。
リリスはワイドショーを一生懸命見てるアルを見てつい笑ってしまった。
その時、リリスのスマホにLINEの通知音が。
カケルからのDMだ。ああ、アルの事だなとリリスは開く。
「あれからどうだ?」という感じで短いメールが書かれていた。
リリスは「落ち着いてご飯食べて、今テレビ見てる」と送ると、一拍置いて
「アルの服とか買いたいし、このあと一緒に街に行かない?」と。
もう一文、カケルに追伸するのだった。
2時間ほど経ち、カケルはリリスの家に行くと大いにおどろいた。
「やあ、カケル、来たね!」
「えぇ... あ、アル、なのか...?」
これがあの向こうの世界で毎度出迎えてくれてた、アルなのか...?
外出するために着替えたアルは薄青色の伊達メガネをしていた。
(アルは緑の瞳をした翠眼(すいがん)で、こちらの田舎では非常に
目立つと思ってたらしくリリスが気を利かせてかけさせたらしい)
輝く金髪の大半を帽子にしまい隠し、リリスの姉のものである
ちょっとおしゃれな服をアルは着ていた。
カケルが向こうで見なれた、木に登って木の実を捥いで投げる、あの
アルとは本当に別人にしか見えなかった。
「お、おう。 マジで、アルなんだ、な...?」
カケルは再度アルの顔を正面から見た後、一瞬首から下に目が行った。
そしてリリスの方を向くと頷いて言った。
「マジで驚いた。 ...でも、アルはアルだった」
「それどういう意味よ、カケル!こないだからどこ見てモノ言ってんのよ!」
「15になろうとする成長期の男の子ですから怒らないでよ、"お姉ちゃん"...」
「次、変なとこ見たらぶっ飛ばす!」
こんな軽口を飛ばしながら、今回はリリスのお袋さんの車で町への
買い物に行くことにした。
田舎は外人が居るというだけで噂になる。
下手に噂にならないように最低限の移動距離を全員でまとまって
行動するには公共の乗り物ではなくやはり自家用車だと。
アルにおいて一番目立つのがこちらの世界とは別物としか見えない
光沢の髪であり、帽子で隠そうにも髪が一部漏れ出てしまう。
カケルは
「金髪の奴は一杯居るし、無理に全部隠すと逆に怪しく見えないか」
ということで、アルの帽子に入りきらない髪はあえてそのままにした。
モチロン、光に当たると輝きの質が違う髪ゆえ、すれ違う他人が
結構な確率でそれに気が付き、おもわず振り返ってはいたが。
郷土のデパートの地下駐車場から中に入り、いろいろな階に行っては
はしゃぎながら買いものをするリリスとアル。
二人をリリスの母と共に一歩後ろから見ている荷物持ちカケル。
メインの普段着/ちょっとした服を選ぶメインエヴェントとなると...。
本当に大変だった。あれやこれや、これだあれだと、とっかえひっかえ
デパートの人も呆れる選び放題/試着し放題を二人はするのだった。
この場だけでアルとリリスは軽く2時間近く居座った。
...さすがにカケルは疲れ果て服コーナー向かいの休憩用椅子で寝てた。
ようやくメインの洋服を購入し、帰るのかなと思った時。
アルが地下駐車場からの直帰ではなく、外にちょっと出てみたいという。
確かに、思ったよりはアルも悪目立ちはしてない感じだった。
リリスアイデアの大きな帽子と色付き伊達メガネ、更には───
ちなみにアルはちょっと嫌がったらしいが、リリスのおかあさんが、
少し地味目に顔色をメイクにしたのもよかったのかもしれない。
(アルは”顔に落書きされてるようで嫌だ”と拒んでたらしいが)
リリスも母もGj。
デパートを出ると、目の前がバスの停留所でもあり人通りもかなり多い。
そんな人波が行きかう中。 アルはデパートの隣の建物の前にあった、
大きな丸石が回るオブジェクトに興味を持ち、触ったり戯れる。
こういう姿を見ると、アルはまさに外国人旅行者だな、と一行は笑った。
街から帰るとアルは早速新しい部屋着に着替えた。
さすがにあれほどの人通りを見たのは初めてだったらしく何か疲れたと
ベッドに横になりながら言う。
リリスに「人に酔ったんだよ」と言われ、
「人に酔う、なるほどね、酔ったような変な感じね」と笑うアル。
それからしばらく、アルは口を開かなかった。
カケルとリリスはアルは寝ちまったかな、と思った時だった。
「 ありがたいな... 本当にありがたいよ。
あんなに綺麗な服をいくつも買ってもらって、
珍しい美味しい料理を食べきれない程ごちそうになって...
何の心配もない。 快適に過ごせている...。 本当にありがたい
.... ...でも... 」
あっ、と。カケルもリリスも気が付いた。
アルが元の世界に帰りたがってる。
二人は顔を見合わせると頷き、そしてアルのもとに寄った。
「そうだな、アル。そろそろ向こうに帰るための準備、始めてみるか」
「行ったり来たりの方法が見つかってからの方が、落ち着いて楽しめるもんね!」
アルは上半身起き上がると、二人に向き直った。
「 ...頼むよ。あまりにここが快適すぎて... 楽しすぎて...
元の暮らしが出来なくなりそうな気がするんだ。それが怖い...」
アルの何時にない弱々しい笑みに、カケルがサムズアップで答える。
「 ”大丈夫! すぐに帰れるって!”
”いっしょに探しだそう” ぜ! 今から!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます