閑話 消えた転生特典の謎
そこにいるだけで肌を焼く熱気の中、
ふと何かを感じ取り、炉に入れていた鉄棒を引き出し金床の上へとあてがう。右手に持った
ここは鍛冶場。
そのあまりの過酷さに、片側の光を失う者もいる仕事場だ。
女神フィルトは、少し引き延ばされた塊を再び火の中へと突っ込んだ。
「はようから精が出るなぁ…」
フィルトの背後から声を掛けたのは、鍛冶の神
「あ、師匠。おはようございまっす!」
振り返り、腰を直角に曲げて元気に挨拶をする。それに対して、ややぐったりとした天目一箇神は手を上げて応えた。
「おぉぉ…すまんが、あまり大声を出さんでくれ…二日酔いの頭には少し響きすぎるからな…」
「あ、すいません。」
「寝る前まで、GodTubeで
【フォーガルド】特別生配信! 魔王襲来!?都市防衛チャレンジ!!!
を見ながら酒盛りしとったはずだが…。お前、休んどらんのか?」
「あー、一眠りしてから――とも思ったのですけど、その配信に彼が映っていてですね…。」
「ぬぅ…おぉ、彼と言うのは、刀の依頼主か?」
「はい。かなり苦戦してるのを見て、ちゃんと武器を用意してあげてたら、もっと楽だったのかな…なんて考えちゃって。」
「ふん、そんで居ても立っても居られんなったってわけか。」
「えぇ…まぁ。」
再び炉から鉄棒を取り出し、槌を小刻みに叩きつける。
叩きつける度に火花が散り、赤熱した鉄が黒く薄くなっていく。
「しっかし、刀が良くても使い手がなぁ…。」
「そうなんですよね。そもそも持てないと言う…。んんっ」
鉄を再び炉の中へと差し込み、腰を伸ばす。ポキポキと関節が音を鳴らし、喉の奥から
「まぁ、がんばってくれ…俺はもうちょい寝る」
「あ、はい。おやすみなさい」
覚束ない足取りで出ていく天目一箇神を横目で見送る。
ゴキブリ。皆が大嫌いな、黒色の昆虫。
そこに居るだけで拒絶され、そこに居なくても存在を否定される、悲しい虫。
転生先としては、最悪に近いだろう。
まず、言葉が通じない。
まぁ、ヤマトの場合は奇跡的に魔物と意思疎通できる少女と出会ったおかげで、苦労は無かったようだが。その上、少女はゴキブリが嫌いではないという奇跡。
自分の手で送り出した負い目みたいなものを感じていたが、この調子だと大丈夫そうだ。
「ただ…少し不満があるとすれば、シナリオを狂わされたって所かな」
フィルトの考えたパーフェクトなシナリオ。
その結末に繋がる伏線が、半分以上台無しになってしまったのだ。
本来なら、ソフィはこの時点で闇落ちして、マルボスを倒し力を得て、魔物の王となる予定だった。それを軸に展開する予定だったストーリーが丸々お釈迦になったのはかなりの痛手である。
「まぁ…まだ伏線は残ってるからいいけど。水晶とか、マルボス君の死体とか…
むむむっどこかで私の悪口を言っている感じがする…。」
そう言うと、フィルトは作業を中断して複雑な魔方陣を描き始めた。
ものの30秒で書き上げたそれに向かい、歌のような流麗な呪文を唱えた。
その効果は、食べ物の骨が口に刺さる―――と言う嫌がらせ以外の何物でもない下らない効果だが。
「よしっ、仕返し完了。―――ってあぁぁっ!ヤバい入れ過ぎた!」
慌てて
細長く延ばされた鉄はバチバチと火花を散らし、オレンジ色に輝いていた。
「ふぅ…セーフかな?」
槌に水をつけて、叩き均して形を整えていく。
数度、それを続けていくとやがて刀に近い形へと近づいて行った。
今度は薄く薄く延ばして刃を形成して、反りがつく。
ここから、焼き入れ、
…が
「やっぱり駄目ね。」
火造り…刃を形成する作業が終了した段階で、フィルトは首を横に振った。
パッと見では、全体のバランスは悪くない。反りも申し分なく、特段、大きな傷も見受けられない。
「だけど、延び過ぎね…。刃を作る時に、縦にも延びちゃったのかしら?」
気付けば刃渡りだけで2尺7寸(約81㎝)程になっていた。ヤマトが使うのに適切な長さは2尺2寸~2尺4寸程度なので、長すぎなのだ。
「はぁ。とりあえずこの刀は完成させるとして、またやり直しだなぁ…。」
ヤマトの転生特典が完成するには、まだまだ時間がかかりそうだ。
転生したらアレだった…ウソだろ!? 黒いヤツ(仮) @go1ki7bu3ri2
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