第55話 初心冒険者の日常

(まだまだ終わりじゃないぞい。)


「どうしたのヤマト。頭でもおかしいの?」


『酷くない?』


 虫けらを見る様な冷ややかな目で虫けらヤマトを見るソフィ。



 冒険者ギルドに登録してから一週間経った現在、ソフィ達はランク昇級に向けてコツコツと活動をしていた。


ランク昇級の条件は、ギルドからの信頼ポイント…通称GPギルド・ポイントを一定以上貯めることだ。これは、普段の生活態度や依頼、ギルドの手伝いなどで増減し、ギルドマスター個人の裁量で細かい数値が決定される。


 そして今は、薬草の採集依頼を完了して街へ帰る途中だ。


「あ゛―――…ずっと屈んでたから腰がイテェ。」


「ふふふ、さすってあげようか?」


身体を逸らしながら呻き声を上げているのはピート。気遣うように話しかけるのはユキだ。


「むぅ…おもしろくなかった。」


「そんなこと言うなよ。これも冒険者の大事な役割だろ?」


 採集依頼を受けてむくれているのはソフィ。諭すように話しかけるのはメイビスだ。


「でもでも、冒険者と言ったら討伐でしょ~⁉」


 ランクEになると、討伐依頼が受けられるのだ。

 討伐依頼とは、その名の通り魔物を討伐する依頼だ。

 依頼には他にも、ソフィ達が受けている薬草採取などの採集依頼、浮気から魔物の分布変化、果ては国の動向までも調査する調査依頼、隊商や貴族を安全に目的地に送り届ける護送依頼などがある。


 しかし、様々な依頼がある中で、最も人気で冒険の花形とでも言うべきは討伐依頼だった。


 この数十年で技術革新が起こり、大衆文化が発達するようになると、人々は物語というものに深く惹かれるようになっていった。

 各地を巡りその先々の風俗を繊細に写した紀行文を始めとし、情事を人物の心情にまで深く切り込んで鮮やかに描き上げる恋愛小説や、起こり得そうで起こり得ない絶妙に笑いを誘う様な滑稽本など、様々なジャンルの物語が売られ、瞬く間に人々の間に浸透してしまった。


 その中でも、最も人気を博しているジャンルが、一人の人間が多大な困難に立ち向かう様子を莫大な装飾によって彩った英雄譚であった。

 そして、そういう英雄譚には、しがない冒険者が強大な魔物を討伐して功績を上げ成り上がる物も多い。


 その影響だろう。冒険者と言えば討伐のイメージが定着したのだ。

そして、冒険者の周囲を巡る環境も大きく変わった。それまでは、社会不適合者とまで言われ蔑みの目を向けられることも多かった冒険者が、この十数年で憧れの的となり、一気に人気の職業となった。今では、子供のなりたい職業ランキングの上位3位に食い込むほどである。


「むぅ…楽しみにしてたのに」


 それほど人気な討伐依頼を、何故ソフィが受けなかったのか。


「しょうがないだろ?マルボスがここら辺一体のモンスターを全部引き連れてきちゃったんだから。」


 と、いうわけである。

元魔王というだけあってマルボスの統率能力は凄まじく、辺り一帯の魔物は殆どランミョーンの街へ攻めてきていた。そして、その大半は街で討伐されてしまった為、現在、ランミョーンの街周辺では魔物が全く居ない状態となっていた。


 因みに、街に入った魔物の半分はソフィの父ルーウィンとクマールによって討伐され、残り4割5分が街の防衛戦力によって、残った5分はマルボスの支配から外れて逃走している。


「でも、もし魔物を見かけても傷つけないってどういうことなのよ!」


「だから、それはギルドでも説明してもらっただろ?僕に言うなよ。」


『あー、はいはい。喧嘩すんなよ。ほら、街に着いたぞ。』


 やいやい言っている内に、街を囲む城壁が見えてきた。

間近で見れば殆ど直線に見えるこの壁は、実は緩い弧を描いて街を囲っている。

と、完全に開かれた重厚感のある門は、以前よりもさらに強固さを増している気がする。


 ここは、北西の門。

つい2週間ほど前に、メイビスによって完全に破壊され、そのメイビスの手によって再建築された壁だ。


「おっ、食いしん坊デヴォウアー城壁砕きウォールクラッシャー様じゃないか。どうだ、冒険者は慣れたか?」


『毎日がエブリデイです。』


「その呼び方やめろって何度も言ってるだろ!?」


 馴れ馴れしく声を掛けてきた街の衛兵に適当に返事を返すヤマトと、叫び返すメイビス。

二週間前の出来事がよほど記憶に残ったらしく、冒険者として活躍した証拠である“二つ名”が、街の中限定とはいえ定着しつつあった。


 “二つ名”とは、ある程度の活躍をした冒険者の名が広まる中で、勝手に定着するあだ名のようなものである。二つ名は、冒険者本人が積極的に名乗って定着する場合と、為した功績によって勝手に広まる場合の二パターンがあり、今回はもちろん後者である。


 現在、二つ名を持っているのはヤマト、ユキ、メイビスの3人だ。

特にメイビスの“城壁砕き”は、本人が壊した壁を直したこともあり、街中に浸透していた。他にも、“破壊神”なんて呼ばれたりもしている。


「まぁ、今は討伐任務ができねぇからなぁ。冒険者にとっては辛いだろうが、頑張れよ!」


『あいよ~』「うんっ」「おうっ」「はい」「はぁ…」


それぞれバラバラに返事をして門を後にする。向かう先は、冒険者ギルドだ。

依頼が完了したら、即報告。これを怠ると評価が下がる。



 西部劇の酒場にあるような扉を押して中へ入る。

中に人はまばらで、その大半は酒を飲んでいる。扉へ一瞬視線を向けるも、すぐに逸らして仲間との談笑へと戻っていく。


「おかえりなさい。何の御用ですか?」


 薄っすらと笑みを張り付けて、マニュアル化されているのだろう少し違和感を覚える言葉遣いで要件を聞いてくる美人受付嬢。


「依頼完了の報告に来ました。」


「はい。ではこちらにカードを差し込んでください。」


 カウンターに置いてあるレジスターに似た魔道具のスリットにカードを差し込む。


「はい。現在お受けの依頼は、薬草採集、毒草採集、ブラッドベリ―採集の三つです。どれの完了報告を致しますか?」


「全部で。この袋が薬草、この袋が毒草、この袋がブラッドベリ―です。」


袋を持ったユキがカウンターへと並べる。袋の中を覗いた受付嬢は頷き、レジスター似の魔道具へと何かを入力していく。


「はい、確認しました。これにて、依頼達成となります。こちらが報酬の12Bとなります。ご確認ください。」


 淡々と、事務的に依頼完了の報告が終わる。これで、カードにGPが加算された状態となる。


「で、どうだった?今日の冒険は。」


 と、途端に打ち解けた様子で受付嬢が話しかけてきた。


「んー、いつも通り。つまんなかった。」


と、頬を膨らませてソフィ。


「ふふふ、討伐依頼が受けれないものね。」


優し気に微笑んで、受付嬢は相づちを打つ。先程の事務的な態度はまるで嘘のようだ。同じ表情の筈なのだが、今の方がよほど血の通った感じがする。


「そーなの!せっかく冒険者になってワクワクな冒険が出来ると思ったのにぃ!」


「…ソフィちゃんったら、ずっとこの調子なんですよ。」


「まぁ…俺も少し物足りない感じもするけど、これはこれで楽しいからなー。」


 この三人も、最初はこの豹変に戸惑ってかなり警戒していたが、今では普通に話せるようになった。


 豹変をするのはこの受付嬢だけでなく、このギルドの受付嬢の大半はこんな感じで態度ががらりと変わる。荒くれ者を相手に受付嬢をするのは、かなりストレスが掛かるのだろう。心を殺す術を身に付けているようだ。


「ふふふ、モーガン君たちも王都の方に行っちゃったもんね。」


「なっ…!モーガンは関係ないもん!」


「そうね。ふふふっ」


そう、モーガンたちは既にこのランミョーンの街から去っており、王都へと拠点を移している。

 王都近郊には巨大なダンジョンがあり、一攫千金を目指し日夜冒険者が挑み続けているが未だ最下層へと至った者は存在しない…。と目を輝かしながら言い、ウキウキした様子も隠さずに去っていくモーガンの姿をまるで昨日のことのように思いだせる―――というか、昨日のことである。


「まぁでも、まだ数年はこのままかもね。でも、私は少し安心かな?あなた達が危険な目に合わなくて済むんですもの。」


少し影のある笑みを浮かべ、優しい声音で話す受付嬢。何処か寂しげなその目に、命のやり取りを間近で見てきた苦痛が滲んでいるようにも見えた。


「でも、それだとお姉さんのお給料も下がっちゃいますね。この数年、このギルドの主な収入源は討伐依頼と持ち込まれたモンスター素材の売却でしたよね?」


「あっ…」


が、メイビスのこの一言により物憂げな雰囲気は一気に吹き飛び、苦々し気な表情になってしまった。


「よく勉強してるな、坊主。でも暫くは大丈夫だ。この間の魔物素材は、日持ちするように加工して倉庫に保管しているからな。あれだけの素材だ。一気に市場に流すと、価格の暴落を引き起こすだろう。その対策も兼ねて少しずつ市場に出す予定だ。」


 後ろから話しかけてきたのは、作業服姿のギルドマスターだった。どこかで農作業の手伝いでもしてきたのだろうか。背中の籠から、草刈り鎌や枝切りバサミが覗いている。


「あっ…おかえりなさい。何の御用ですか?」


 スッと表情が消え、声が少し硬いものになった気がした。実際は何も変わっていない筈なのだが、雰囲気が大きく変わる。


「依頼完了報告。」


「はい。ではこちらにカードを差し込んでください。」


 そう言い終わる前に、ゴリウスはカードを魔道具にねじ込む。


「現在お受けの依頼は、農作業の手伝いです。」


「依頼人のサインだ。」


「はい、確認しました。これにて、依頼達成となります。こちらが報酬の3Bとなります。ご確認ください。」


 非常に手慣れた様子で依頼完了を済ませる。


『なんでギルドマスターが農作業手伝いなんてしてるんだ?』


「サボってる奴らがいるからだ。」


 ゴリウスが併設されている酒場の方へ、ギロリと視線を飛ばす。

かなり広く、席数も多いはずの酒場がほとんど満員になり、中には地面に座り込んで飲んでいる人もいた。

 そのことごとくが、フイッと明後日の方向へと顔を向けてゴリウスと目を合わせないようにしていた。


「…この前の大群襲来で、かなりの報酬が出たから、わざわざ依頼をこなさなくても遊べるーって、ここ最近ほとんど依頼を受けなくなっちゃったのよ。で、しょうがなくマスターがこなしてるの。」


 受付嬢が呆れたようにため息を吐く。それに対して、ソフィは不思議そうに首を傾けながら聞いた。


「ランク上げはしないの?」


「食えるだけの金があれば、それで十分なのさー!ヒャハハハ!―――いてぇっ!」


 ソフィの呟きを拾った緑髪の酔っ払いが下品な笑い声をあげる。

と、次の瞬間ゴリウスが青年の後ろに立って、拳骨を下ろしていた。


「その根性、叩き直してやる。来い。」


と、そのまま裏にある訓練場へと青年を引き摺って行った。何人か巻き込まれて一緒に引きずられている。

 ゲラゲラとあちこちから笑いが生まれ、騒ぎが大きくなっていく。


「はぁ…―――誰が片付けすると思ってんのかしら。皆は、あぁはならないでね。」


受付嬢は物憂ものうげに溜息をつき、困ったような顔でソフィ等にささやいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 3人と1匹は、宿へと帰っていく。メイビスは実家住まいだ。トンとハクは、普段は森に棲んでいる。


 宿は一階部分が「ヤヨイ亭」と言う名前の大衆食堂となっており、その手伝いをすることで宿賃の代わりとしていた。

ヤヨイ亭は、中年夫婦とその一人娘で切り盛りしており、安い・多い・旨いの三拍子そろった地元でもそこそこ繁盛している部類の店だ。中には、看板娘目当てで通う人もいるとか。


「「「ただいま~」」」


「あっ、おかえりなさい!ちょっと今忙しいの!ソフィちゃんとピート君は給仕に回ってくれる?ユキちゃんとヤマト君は厨房で!」


 部屋に戻り、前掛けと三角巾を装着して急いで下に降りる。

その時の忙しさによって役割は変わってくるが、一応料理の心得のあるユキは厨房に、元気の有り余るソフィとピートは接客に回ることが多い。


 その間、ヤマトは何をしているのか。


(よし、A班はそのまま下水まで追い立てろ!B班は引き続き待機!C班は俺と一緒に見回りだ!)


 床下で店の平穏を守護していた。


 最初、店主は店の入り口に台でも設置し鎮座してもらい、客引きマスコットとして働いてもらおうと考えていたようだ。大量の厄介者魔物の死骸を数日のうちに消し去った救世主として、街でもかなりの知名度があり、そこそこな人気者なことを利用しようということらしい。


 しかし、今のヤマトの姿は、手の平サイズのゴキブリだ。飲食店に居るには非常に不向き…どころか致命的ですらあった。

 たとえ、毎日身体を磨いて綺麗にしていようが、喋ることができて街で人気者だろうが、ゴキブリはゴキブリである。飲食店でその姿を見かけたりすれば、盛大な悲鳴が上がること間違いなしだろう。


 と言うわけで、ヤマト自ら志願し、街に居たゴキブリ達を率いてネズミなどの害獣を追い払っていた。


(―――そろそろか。)


 強敵の訪れを予期して、下水へと入っていく。

えたような臭いを感じながら、周囲を警戒する。


と、仲間の命が一つ、消えた感覚がした。


(来たッ!)


 綺麗に隊列を組んだ部下(ゴキブリ)を、突進一つで突破して来るネズミが一匹。

大きさはヤマトの2倍程度と、普通のネズミと比べると3倍ほど大きい。そんなネズミが、右しかない赤い目を光らせてゴキブリたちを蹴散らしていく。


一瞬、部下(ゴキブリ)たちが動揺するのを感じる。


(狼狽うろたえるな!囲んで罠まで誘い込め!)


一喝し、体勢を立て直そうとするも、その一瞬の隙を見逃さずにネズミはヤマトへと向かってきた。


(くっ…やるしかないか!)


仕方なく、ヤマトは全身に力を入れる。すると、外骨格がピキピキと音を鳴らし始め、身体が膨張していく。

 やがてそれはネズミと同じ程度のサイズへと変わり、真正面からネズミとぶつかりあった。


(毎日毎日、性懲りもなく来やがって!今日こそ決着をつけてやる!)


 ぶつかり合った衝撃で、互いに体が浮き上がる。

辛うじて踏みとどまって突進しようとするが、相手も同じことを考えていたようで、再びぶつかり合う。

 互いに組み合って、相手を掴もうとする。結果、がっぷり四つの状態で拮抗していた。


(くっ、おらぁぁぁ!)

キィィィィィィィィ!


 互いに全力を出し、時に力を抜いて受け流し、脚を掛けて転ばせようとする。その様子はさながら異種戦大相撲だ。


 相撲、それも四つ組みともなると、軍配はネズミに上がる。

ヤマトはゴキブリである。元々、昆虫は軽い。それは大きさも関係しているが、身軽な挙動を可能にするために軽量化された種なのだ。いかに筋力に優れていると言っても、やはり体重が重い方が有利なのである。


 ジリジリとヤマトが押され、下水道にある歩道のギリギリまで追いつめられる。


(くっ…!)

キキィ!


 勝ち誇ったように、ネズミが鳴き声を上げる。


(だが…まだだぁぁ!)


 ヤマトは、全身に力を入れた。今度は、身体を内へ内へと収縮するようなイメージで。

 途端、ヤマトの身体から再びピキピキと言う鋭い音が鳴り、もとの手の平サイズよりも小さい、スタンダードサイズへと縮んで行った。


キキィ!?


 全力でヤマトを押していたネズミは、急に目標が無くなったことで力が前へと逃げてしまい、バランスを崩してそのまま下水へと落ちて行った。


キキィィィィィィィィ――――――…


割と早い下水の流れに翻弄されて、ネズミは遠くへと去っていく。


(ふぅ…今日も何とか勝てたぜ。さて、戻るぞ!)


 そして今日も、ヤヨイ亭の平和は守られたのであった!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うーん、疲れたぁ!」


ぐいーっと背伸びをして、ソフィが呻く。

目の前には、大皿にてんこ盛りの料理が置かれていた。


「お疲れ様。今日もお客さんいっぱいだったね。ソフィちゃんたちが来てから、大繁盛だよ!」


「んふふ~、ありがとーヤヨイさん」


 ソフィの頭を、愛おしそうにナデナデするこの女性の名前はヤヨイさん。ヤヨイ亭の看板娘であり、店主夫婦の一人娘だ。


「ムツキさんの料理も美味いんだよな。あんまり食べたことない味だけど、クセになる。」


「うんうん、教え方も優しいし、勉強になることがたくさんだよぉ。」


 ピートが言ったムツキさんと言うのは、ヤヨイさんの父親だ。

無口で職人気質なダンディガイで、ヤヨイ亭の厨房を担う大黒柱である。

 なんでも遠い島国の生まれらしく、冒険者として流れ着いたこの地で奥さんと結ばれ、こうして店を持つことになったとか。

 その料理は、調味料から自作するという手の込み様で、味付けは何処か和風なのだ。


「…」


「あら、照れちゃってるわ。」


 そう言うのは、奥さんのマーサさんだ。元々、このヤヨイ亭の店舗はマーサさんの父親のもので、どうしても残したいという思いから一人で切り盛りしていたところに、ムツキさんと出会ったという。


「私としては、ヤマト君にも感謝したいわね。ここ最近、全然ネズミもローチも出なくなったんですもの。やっぱり清潔感って、飲食店には大事なのよねぇ。」


『いえいえ、いつもお世話になってますので。すみませんね、仲間の分までご馳走してもらって。』


 そう、ヤマトの部下(ゴキブリ)たちは、美味しい残飯を分けてもらうことを対価に、この店の衛生を守っているのだ。



 食卓は、終始暖かく和やかな雰囲気で過ぎて行った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

~女子部屋~


「ふぁぁぁ…。」


「ソフィちゃん、寝る前にちゃんと歯磨きしようね。」


「うにゅぅ…」


「ふふふ、お疲れだね。今日はどんな冒険があったのかな?」


年が近い同性という理由で、ソフィ、ユキはヤヨイさんと同じ部屋で寝ている。元々、そこまで部屋に余裕は無かったので、苦肉の策だ。


「えっとねぇ…草取ってたぁ…」


「ふふっ、昨日はお掃除だっけ。頑張ってるねぇ。」


「むぅ…つまんないー…」


「ふふふ、モーガンさんは王都に行っちゃったもんね。あーぁ、せっかくの常連さんだったのになぁ。」


モーガンの名前が出た途端に、ソフィの顔が真っ赤になり目が開く。


「ふぁっ⁉い、今はアイツの話なんか…!」


 そう言うソフィを温かい目で見ながら、ユキは口を開いた。


「ふふふ、そういえばソフィちゃん、モーガンさんと会う度に喧嘩してたよねぇ。仲良しだねぇ。」


「ぐっ…そう言うユキは、ピートとどうなのよ!」


「えぇ?ラブラブだよぉ~」


「ねぇねぇ、二人は実際どこまで進んでるの?」

女三人寄らば、かしましい。特に、恋愛の事となると―――



―――――夜は更けていく


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

~男子部屋~


「なぁ、ヤマト。」


『何だピート。女子部屋に忍び込めってんならやらねぇぞ。』


「いや、そうじゃなくて…。お前の元居たところの話を聞きてぇなって。」


『なんだ?特に面白いもんも無い…ことは無いか。お前らからしたら未知の世界だもんな。』


「あぁ。特に、お前の世界の常識が知りたい。魔法どころか、魔力も無いんだろ?」


『んぁー…まぁ、そうだな。分からなかっただけかもしれねぇけど。』


そこから、ポツリポツリと、断続的に会話が続く。

  自然のこと、生物のこと、科学のこと、文化のこと――――

時々、隣の部屋からドタバタと音が聞こえてくる。




『まぁ、こんなもんかな。そろそろ寝るぞ。続きは今度話してやるよ。』


そう言って、ヤマトはランプを消す。隣の部屋からの物音は無くなっている。

既に月は高くまで上がっており、窓からは暗闇のみが覗いていた。


「なぁ、ヤマト…。」


『なんだよ。』


言い淀む。


「その…寂しく、無いのか?」


『あ?あー…寂しくないかな。お前ら居るし。』


「そうか…。」


『何だよ。ホームシックか?』


「ちがうよ…とっとと寝るぞ」




 ――――― 一日が終わる ―――――

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