ただいま
「ねぇクロ、今日お買い物に行かない?」
「何を買うの?」
「そういえばクロのお洋服が少ししかないと思って...。」
「買ってくれるの!?」
「うん!」
シロの視線を独り占めすることに成功した。
アカやアオからその関心を奪い取った。
クロは優越感に浸っていた。
「じゃあ行こう!」
「うん!」
こうすることがお互いに幸せなんだ。
こうすれば全てが繋がって美しいものになる。
洋服屋や玩具屋、色々と店を巡って二人は最高の一時を過ごした。
「楽しいね!シロ!」
「うん、とっても楽しい!」
食事をしたりもして、初めてシロがクロに向けて本心で楽しいと言った。
「ねぇ...シロ。
もしさ、シロが困ったら何でも言ってね!
何でもしてあげる!」
シロは目を見開いて、それから頷いた。
「私、あんなに冷たくしたのに、クロはまだそんなに私を愛してくれるんだね...。」
「勿論!」
クロの笑顔はシロにとってずっと守っていたいものであった。
でも...着々とその日々は壊れた。
ここに来て約五年が経った。
クロは十歳になり、シロは二十歳を越えた。
幸せに暮らしていた。
学校にも通うことができて、新しい友達も出来た。
友達が出来ても互いを思う気持ちは薄れることはなく、嫉妬のない平和な日々だった。
ある日の夜のことだった...。
シロは唐突に思い出した。
自分が犯罪者であること、その罪を親友が庇って捕まったこと、その犠牲を超えて今、
好きな人と暮らしていること。
別に罪悪感はなかった。
それでも、一つだけ浮かび上がる良くない感情があった。
「クロ...。私、人を殺したい。」
「ボク、自分で人狩れるようになったじゃん。」
クロはここに来たからというもの、自殺志願者とネットで知り合い、森で会い、相手の了承を経て食するという生活を送っていた。
心を病んでしまった人なんて大勢いて、
そっちの方が尻尾を掴まれにくいと思ったのだ。
「それでも...私に殺させてくれないかな...?」
「わ、わかった。」
シロは包丁を持って、クロが知り合った者に会いに森へ向かった。
「初めまして。」
日本語を話せる人らしく、相手の方から話しかけてきた。
「初めまして、ボクがクロ。
こっちがシロです。
ネットでの約束はボクですが、殺すのはシロがやります。」
「よろしく。」
シロが言うと相手はニヤリと笑った。
「殺人鬼...見つけた。」
「「なっ...。」」
「私が慕っていた従姉妹のお姉ちゃん、
日本とのハーフで日本語しか話せない私がここに来た時、面倒を見てくれたお姉ちゃんを殺した罪!しっかりと償え!」
相手は斧を持っていた。
「クロ逃げてっ!」
「で、でも...っ!!」
「早くっ!!!」
シロに言われるままクロは走った。
「お前、お姉ちゃんの遺体はどこへやった!
とう殺した!答えろっ!」
「答えたとして彼女帰ってこないでしょ?
意味あるのかな?私にはわからない。」
「こ...のサイコパスが!」
「ずっと前、言われたことがあるよ。
小さい頃に人に怪我を負わせたことがあった。でも全然反省できなくて。
反省しなさいって意味がわからなかった。
別にその人死んだわけでもないのに何でって。」
「そんなに感情が死滅してんなら、何であいつを逃したんだよ!」
「大切な子だから。
私が大事な人を見捨ててしまった時に心を支えてくれた、誰よりも大切な。
その子を守るために...私は何でもするって、
あの時決めたの!」
シロは包丁を相手に向けて勢いよく走る。
「う...っ!」
「あ...」
シロが突き刺した瞬間、シロの頭に衝撃が走った。
斧で頭を割られたのだ。
二つに割れた頭から血がドクドクと溢れ出す。
美しかった容姿が思い出せないほど、醜い姿に変わり果て、白目を剥いて痙攣する。
相手は相手で包丁の刺さった場所を強く抑えてフラフラと少し歩くと力尽きて倒れた。
「せめて..こいつ...だけはっ...」
かろうじて引き抜いた包丁をシロの体に刺そうとした。
「あぁぁぁぁぁ!」
クロが叫び声と共に太く長い鋭利な木の枝で
相手の背中を突き刺した。
「ぁ...お...まえ」
奴が力尽きたのを確認して、シロの元へ駆け寄る。
「シロっ!」
もうすでにシロは死んでいてピクリとも動かない。
辺り一面を染める赤色が彼女の命の終わりを物語っていた。
「いや...嫌だよ...。シロぉ。」
呼んでも嘆いてもシロは人間だ。
戻って来ない。
「シロ...。今、一緒になるからね。
一人にしないから、一人じゃ困っちゃうもんね?貴方が困ることがあったら何でもするって言ったもん。本当に何でもするよ。
命なんてもう要らないから。」
どうして自分が鬼に生まれたのかなんてわからない。
故郷を追い出されてから手に入れたこの気持ちが幸せというものであっていたかなんて
わからない。
でも、感情がわからないのはシロも同じだ。
だったら最後までずっと、永遠に一緒にいることがわからないなりにクロが導き出した
最高の幸せだから。
「うっ...。」
転がっていた包丁を心臓に突き立てる。
血がなくなっていく感覚と、心臓が傷ついて止まる感覚の両方を感じて目を閉じた。
走馬灯として浮かぶ中に不幸な時のものなどなくて、ずっと幸せでいたかのような感覚だ。
シロの元へ行ける。
たったの数分しか離れていなかったけれど。
シロの元に帰るには、行ったことのない地獄に対してでもこう言おう。
「ただいま...」
と。
それが罪だとしても 白薔薇 @122511
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