恋愛下手拗らせ体験

前の話に自分が同性愛者であることを書いたのだが、自分のセクシャリティを完全に自覚できたのは比較的遅く30代になってからのことだった。

その頃私は丁度職場を変わって新たな人間関係を築きつつあって、めちゃくちゃ勇気のいることではあったがカミングアウトしてみたいと思える友人と巡り合うことができた。

結果は大成功で私が同性愛者だと知ってもその友達は態度を変えることはなく、知り合いに同じく同性が好きだという人がいるから紹介するよとまで言ってくれた。

この子に自分を曝け出したから今の私がいると言っても決して過言ではない。

これはそれくらい私の人生のターニングポイントになる出来事であった。


話は変わる。

その時の私には同じ職場に好きな人がいて、でも流石にその人に気持ちを伝える勇気まではなく悶々とした日々を送っていた。

その子はとても柔らかい雰囲気の子で誰に対しても優しかった。

そして何より“誰に対しても距離感がめっちゃ近い”子だった。

前回までの話を読んだ方ならお分かりかも知れないが、私は異常なくらい自信がない人間である。

その子の誰も拒絶しないような包容力のある所がとても好きだった。

その気持ちを自覚してからはなかなかその気持ちを一人で秘めておくことができないくらい想いが膨らんでしまって、先程書いた同僚とはまた別の同じ職場の子にまでカムアウトして彼女への想いを聞いてもらったりしていた。

その子からは「あの人がそんなに良いかなあ?」と不思議がられたりもしたが、気持ちが大きくなりすぎた私は寧ろ他の人が気付けない彼女の魅力が分かっている自分が誇らしいと思うレベルでどんどん恋の病を拗らせてしまう。

そんな風に何人かにはカムできるようにはなったものの、やはり相手に直接気持ちを伝える勇気など出るはずもなくただ想うだけの日々が続いた。

その人のことが好きすぎて姿を見なくても匂いで近くに来たことが分かるくらいの境地に至っていた私は本当に気持ち悪いと思う。

念のため補足をすると、その子は別に香水をプンプンに匂わせていたという訳でもないので本当にただ私が気持ち悪かっただけだ。

気持ちは伝えない癖に自分が相手を大切に思っていることは分かって欲しいと必死になって、バレンタイの日は不自然に思われないようカモフラージュのつもりでスタッフ全員分のチョコレートを作って持っていってその子にだけ特別なプレゼントをプラスして渡したり、クリスマスに仲間内でプレゼント交換でもしようかという話になれば他のメンバーに気付かれないように気を付けつつ何食わぬ顔をしてその子にだけ他の子と違う特別な物を贈ったりしていた。

ここまで自分で書いてどれだけ必死だったのだとドン引きしている。

相手はそういう事をする度に嬉しいと言って笑顔を見せてくれたので本当今考えれば麻薬みたいなものだったなと思う。

でもそんな頭の中お花畑な日々はある日突然終わりを迎えた。

私の後に職場に入ってきた男がいた。

その男はまず挨拶ができない、仕事を正確に覚えようとしない(メモを取ることすらしない)。

私も決して自分を仕事ができる人間だと思っている訳ではないが、あまりの不真面目さに一度苦言を呈したことがあってその後不貞腐れた態度を取られて辟易してしまった。

そんな状態だったので、使い物になるまで男を監督するスタッフを決めようという話になり白羽の矢が立ったのが私の想い人だった。

前述したように誰に対しても優しい人だったから男もすぐに彼女に懐いてその人の言うことは素直に聞くようになった。

しかし無駄に距離感が近いので、ただ仕事をしているだけというのは分かっているがその二人の姿を見ているとなんだかモヤモヤした気持ちになり始めた。

そんな私の気持ちなど知る由もなく好きな人は私にも変わらず優しくて…私はそれが逆に辛くて少しずつ病むことになる。

決定的に私がおかしくなってしまったのはどうやら二人が仕事が終わった後にも会っているらしいということが分かってからだった。

今考えると逆恨みも甚だしいがあんなダメ男(我ながら酷い言い草だと思うが職場ではそういう評価をされていたと言うことで許して欲しい)と親しくするのに何で私の方を向いてくれないんだという気持ちが大きくなっていってしまう。

私は好きなくせに自分の気持ちを伝えることはできなかったし、そもそも同性から恋愛感情を持たれているなんてそうそう考えるものではなかったと思うから本当に責任転嫁もいい所である。

大人としてあるまじき振る舞いだがその男とうまく接することができなくなって大いに同僚たちに迷惑をかけた。

本当に最低だ。

流石にそんな私を見て私の想い人も何かを察したみたいで、ある日仕事帰りにファミレスで二人で話をしないかと誘われた。

情けない気持ちと、でも気に掛けてくれたのが嬉しい気持ちが混ざり合ってその時の私の気持ちは最高に複雑だった。

ファミレスでテーブルを挟んで向かい合わせに座ってからずっと心臓が爆発しそうだった。

最初は他愛無い話をしていたと思う。

どれくらいかして彼女が発した言葉で私は目の前が真っ白になった。

彼女は私が男のことを好きなんだと思い込んでいて、二人お似合いだと思うから応援するよというような話をし始めたのだ。

なんでよりによってと思った。

応援なんてしてほしくないよ。

そこからの私は今まで以上に惨めで情けなかった。

涙は止まらないし、言いたいことがうまく声にならない。

それからどれくらい経ったかは正直覚えていないけれど、やっと言葉を絞り出して言った言葉は

「本当に好きなのは貴方なの」

本当は貴方のところは名前だったけれど、まあそんな陳腐な台詞を震えるような声で伝えた。

結果は想像通り。

呆気なく私は振られてしまった。

相手はストレートだったんだから仕方ない。

自分のセクシャリティを自覚してある意味正しく失恋できた初めての経験だったな。

不器用でカッコ悪くて大人気ない、拗らせまくった片想い。

一言でいうと多分恥ずかしい思い出でしかないかも知れないけれど、決して悪い事だけではない経験だったと思う。

私を語る上では外せないエピソードの一つである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世の中はそんなに捨てたもんじゃないと思いたい @siogiri0128

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ