第40話3.40 居心地が悪いです
模擬戦は、ここまでだった。結局のところ爺様とヤーロス伯父さんの趣味ということだった。
「はぁ、疲れる」
元の部屋に戻ってソファーに座る俺。
「何を言っている。まったく本気を出していないくせに」
「そうだぞ。力の底が見えなかったぞ」
左右から爺様とヤーロス伯父さんに叩かれていた。
「やっぱり、疲れる」
なんかもう、爺様が二人になった気分だった。
「アルは、強いな。俺も鍛えてくれ!」
そんな中、俺に声をかけてくる者がいた。三人目の爺様――もとい、ビルとユーヤ兄と話していた従兄のナーロス兄さんだった。
「いえいえ、ナーロス兄さんも十分強いですよ。爺様と互角に戦えるのですから」
「そうだぜ。ナーロス。今日のは惜しかった。剣だけなら勝てたはずだ」
「うむ。ナーロス、よくぞあそこまで訓練した。儂が迷わず剣を捨てるほどにな」
「ナーロスにぃ、すごかった」
「ん!」
俺を真ん中に、凶悪顔の面々を含む男ばかりで盛り上がる。俺は、隣の机で談笑するラスティ先生達女性陣を見て考えていた。
あっちは華やかだな。いつもは、あそこに席があるのに……
だが、がっちり囲まれている俺が動けるはずもなく。
「あの時は、剣を躱すのに大きく動きすぎだ」
「いや、だが、すでにずらされた重心では、あの動きしかなかった」
「だからこそ、もう一手前に剣を引き戻すべきだった。そうだろう? アル」
「ははは、そうですね」
聞こえてくる会話に、俺は愛想笑いを繰り返していた。
しばらくして。
「やはり、ヤーロスとの談義は面白い」
「ええ、父上との剣術論は終わりませんな。今日はアルもビルもユーヤもいるし!」
まったく、終わりの見えない話。俺は、耐え切れなくなり言ってしまった。
「そんなことより、転移門――」
「「「そんなこと⁉」」」
失言だった。オタクネタで盛り上がっているところにキモイって言うぐらいに。いや違うか、サッカー部員が、フォーメーションで盛り上がってるのを、まずは個人技だろうって言う方か。
ぎろりと俺を睨む凶悪面の三人と苦笑いを浮かべるビルとユーヤ兄。俺は、かつてないほど頭を使って言葉を導き出した。
「えっとですね、楽しいですよね。剣術論。しかし、中々できない。でも、転移門が出来れば、いつでも剣術論が出来るようになりますよ。ってことで、先に転移門の話しませんか?」
役所時代、苦情を言いに来た住民に向けていた満面の愛想笑いまで付けて俺は媚びを売る。
「……分かった。確かにアルの言うとおりだ。王の謁見がいつになるかは分からんが、決めておくべきことだ。碧龍爵家の陰謀についても」
爺様は、渋々ながら引き下がってくれた。それに合わせるようにヤーロス伯父さんとナーロス兄さんも表情を戻してくれる。そして。
「で、転移門ってなんだ? 碧龍爵家については聞いているが……」
ヤーロス伯父さんは首を傾げていた。
「爺様、ひょっとして話してないのですか?」
「ああ、驚かそうと思ってな」
「父上、また、ですか……」
王都到着も伝えない。さらには、転移門という大事なことも伝えない。爺様、よほど驚かすのが好きなようだった。その割に、俺の前では驚いてばかりだけど?
「アル、説明を頼む」
俺が爺様の情けない顔を思い出し、少しにやけていると声がした。
「え、はい。では、転移門設置の計画について説明します」
爺様が伯父さんに話していない、と言った瞬間から分かっていた。俺が説明するであろうことは。ヤーロス伯父さんとナーロス兄さんへ向けて計画の全容を説明する。
「アル、なんなんだ、お前は! 戦いでも底が見えなかったというのに、理術もか‼」
説明を終えた後、ヤーロス伯父さんは頭を抱えていた。ナーロス兄さんに至っては、あまり理解できなかったのか、ぼけーっと呆けている。俺は、どう返していいか分からず一人頬を掻いていた。
「末恐ろしい甥っ子だな。まったく。だが、話は分かった。確かにこの計画には、王家の承諾が必要だ。さらにいうと、追加で龍爵家の後押しが欲しいところだ」
「まぁ、確かにな。辺境と中央を繋ぐことになるからな。辺境を守る龍爵家の後押しは欲しいところだ。だが、可能なのか? ヤーロス。あの龍爵家の当主は、かなりの変人だぞ?」
爺様に変人呼ばわりされる龍爵家の当主。俺は関わりたくないなぁ、と思っていたら。
「交渉は、アルに任せるしかない」
「確かにな。アルなら可能かもしれんな」
爺様とヤーロス伯父さんの二人だけで話はまとまり。
「アル、任せた。繋ぎだけはしてやる」
俺は爺様に背中をバシバシ叩かれながら頷くしかできなかった。
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