第41話3.41 相変わらず一人にはなれなさそうです



 夜は身内だけのパーティとなった。主役はもちろん――新しく身内となるグレンダさんだ。そのグレンダさんの御両親も来られての。

 なんでも、もともとグレンダさんは王城勤めの官僚の娘らしく、今日王都に来てからイーロス伯父さんと二人で挨拶に行ったらしい。今はパーティに参加している御両親も、爺様はじめ紅龍爵家の面々に挨拶して回っている。見ているこっちがハラハラするぐらいに緊張の面持ちで。

突然の結婚、しかも最上級貴族である紅龍爵家の次男となれば驚かずにはいられないということだろう。


 そんな様子を遠めに隣のラスティ先生やサクラと食事を楽しんでいると、俺を呼ぶ声がした。


「アル、いいかい?」


 グレンダさんの両親を引き連れたイーロス伯父さんだった。


「はい。大丈夫です」


 椅子から立ち、グレンダさんのご両親の前に立ち頭を下げようとして、止めた。カロルドさんの目が、きらりと光ったから。多分、ここは頭を下げるところではないのだろう。いくら、イーロス伯父さんの義両親でも。


「初めまして、アル・クレインです」

「は、初めまして。グレンダの父と――」

「母です」


 緊張からか、最低限の言葉だけ言って頭を下げる二人。


「父さん、母さん、そんなに緊張しないで。アル様は、若くして商会長をなさっておられますけどお優しい方だから」


 グレンダさんのとりなしで、何とか頭を上げた。そこに、イーロス伯父さんが、言葉を継ぎ足す。


「そうです。お義父さん、お義母さん、アルはとても優しい人です。私のために商会の一部を新居に改築してくれるほどなんです。そのうえ、優秀だ。私が長年研究しても得られなかった答えを信じられないような方法で実現するほどに――」


 そして、止まらない、俺の背中がむず痒くなるようなイーロス伯父さんの自慢話。最後はグレンダさんに無理やり連れていかれるまで続いた。



 パーティから一夜明けた朝。


「あれ、人が少ないな」


 朝食を食べに向かった食堂の扉を開けて不思議に思った俺は、既に食事を始めているサクラの横に座って話を聞いた。すると。


「なんや、昨日は、遅うまで飲んどったらしいわ。せやから、大人たちはダウンしとるようやで」


 ちょっと肩をすくめるサクラ。俺はメイドさんが出してくれた朝食を口にしながら納得していた。


「なるほどな。どおりで食堂が酒臭い訳だ」

「せやな。それでも、窓を全開にして、理具で換気しとるから、うちが来た時よりはましになっとるけどな」


 いったいどれだけ飲んだというのか、呆れてしまう俺。そこで一つ気になった。


「それなら、いつも早起きのシェールやサーヤは?」

「ああ、あの二人なら、朝からウィレさんに連れられて出て行ったで。なんでも王都の馴染みの店で買い物するとか何とか言うとったな。うちも誘われたけど断ったわ」

「あー、なるほど。シェールのやつが着せ替え人形みたいにさせられるやつだな」


 そうそう、と頷くサクラ。俺は、サクラも同じこと思ってたのか、とその姿を見て笑ってしまう。そこに、ビルとユーヤ兄の二人が顔を出した。


「おはよう!」

「む!」

「「おはよう」」


 サクラと思いもせず揃ってしまった声に若干恥ずかしさを感じながらも俺はビルに今日の予定を聞く。


「王都、見て回ろうと思ってる、な、ユーヤにぃ」

「むむ!」


 二人の予定は決まっているようだった。その後、ビルは、アルにぃも一緒に行く? と聞いてくれるが、俺は首を横に振る。すると。


「ふーん、分かった。二人で行ってくる」


 ビルは、にかっと笑ってから出てきた朝食を掻き込んでいった。


「じゃ、お先!」


 速攻で朝食を食べ終えたビルは、ユーヤ兄と二人で食堂から駆け出していく。俺は、食後のお茶をのんびり飲みながらサクラに聞いた。


「サクラ、予定は?」

「え? ラスティはん起きてこおへんし、サーヤは出かけたし、うちはアルについていく! に決まってるやん」


 あんた、いまさら何聞いてんの? と言わんばかりの返しに、俺は眉を顰めたくなるのを我慢する。


「で、どこ行くん?」

「ああ、貧困街で出来上がった理具の回収と、後は洗髪剤を届けにかな」

「『女神ウェヌスの店』やな。渡せるだけの洗髪剤あったんや。昨日も、ヤーロスさんの奥さんにようさん渡しとったけど」

「伯母――じゃなくて、ナナミさんな。確かに、かなりの量を渡したけど、まだある。店で渡したらなくなりそうだけどな」


 ウィレさんと同じく、おばさんと呼ばれるのを嫌がった結果、名前で呼ぶことになった経緯を思い出し俺は内心苦笑を浮かべる。


「そーかー、なら、また作らんとな」

「そうなんだよな。でも、中継地点も作りたいし、黒龍爵様にも会わないといけないらしいし、ああ、暇がない……」


 立て込んでいる作業を思い浮かべてしまい暗澹たる気持ちになってしまった俺。とりあえず、一つづつ進めるしかないかと思い直し、サクラを連れ屋敷を出て貧困街を目指して歩き始めた。


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