第33話3.33 どうせなら誰も住んで居ないところが良いという話でした


「確かに中継地点重要よねぇ」


 一気に話して疲れたので、お茶をすすっているとラスティ先生のつぶやきが聞こえてきた。話に付いて来られるようになったようだった。


「どこかに当てはないですか?」


 同じくお茶をすすっているショーザさんに声を掛ける。だが、首を横にするショーザさん。


「普通の場所では難しいと思います。中継地点には巨額の利権が絡みますし……」


 眉間にしわを寄せて言い淀んでいた。


「なら、王の直轄領とかは?」

「うーん、思いつかないですね。そもそも直轄領は、魔獣が少なくて人が多いところが多いのですよ。他は鉱山があったりする重要拠点とかですかね。それに王家に反発する貴族もいますし……」

「ああ、それは難しいですね……」


 人が多いという事は、土地が空いていないという事だ。それなら鉱山ならと思うかもしれないけど、重要拠点である鉱山となると敵に襲撃される可能性が高まる。

 どちらも勝手が悪かった。


「どこかにないかな。誰の物でもなくて人が来ない場所。さらに言うとハボン王国の真ん中あたりで」


 頭をフル回転させなが俺は考える。だけど何も思いつかない。いくらスペックの高い頭脳でもダメな時はダメだなと思っていると――


「ハボン王国の真ん中ってヒーダ大山脈? 確かにあそこは人も住んでないし、誰の物でもないけど……」


 ラスティ先生の言葉が耳に届いた。


「ヒーダ大山脈?」


 俺はつぶやき、そしてハタと気付いた。


「そうだ、ヒーダ大山脈だよ。何で気付かなかったのだろう。はは、あはははは、あっははははははは」


 そして笑い始めた俺、止まらなくなってしまった。ラスティ先生とショーザさんに訝し気な目で見られていると知りながらも。


「はぁ、すみませんでした。ちょっと場所を検討してきます」


 ショーザさんに告げで俺は応接室を後にした。ちょっと笑いすぎてショーザさんに悪いことした。という思いを抱きつつ。実際、ショーザさんも気にしていないだろう、頑張ってください、と普通に返してくれたし。


 ともかく、話を通さなければならない。俺の中で候補地というよりもほぼ決定している場所であるヒーダ大山脈の主に。そして俺は共に部屋から出て来たラスティ先生を連れてハイヘフンへと転移した。



「こんにちは」


 俺はハイヘフンでも最も古い住人である長老の元を訪れていた。ラスティ先生が、理術を習っている『風』の真龍の元へと向かうのを見送ってから。


「ふぉふぉふぉ、理力結晶は役に立っておるかの?」

「はい、おかげさまで。使えるようになりました」

「そうか。ならばよいのだ。どんな技術も使われなければ意味がないからの。ふぉふぉふぉ」


 穏やかに話す長老、一呼吸おいて聞いてきた。


「それなら、今日は何用かの?」

「はい、実はヒーダ大山脈の一部を使わせてほしいのです――」


 俺は、あらましを説明する。


「ふぉふぉふぉ。そんな事。儂らに許可をもらう必要もないであろうに」

「ですが、先住者であることは確かですので」

「律儀なことよの」


 先住者の苦情は、役所でも色々対応していた。騒音、異臭によるトラブル、日照権侵害によるトラブル。先に説明があったとしてもトラブルは起こる。困ったものだった。真龍たちに限ってそんなことは無いと思うのだけど、用心に越したことは無かった。


 長老に紹介されたのは、同じヒーダ大山脈でもハイヘフンとは離れた場所。ジャパ海に近いエリアだが、切り立った柱状節理に囲まれた完全な陸の孤島だった。

 

「この辺りは、儂らも近づかんし、魔獣のほとんどは『武』や『闘』達が刈りつくしてしまったでの。気遣うことなく使うがよい」


 言うだけ言って帰ってしまう長老。俺は、中継地点開発へ向け考えを巡らせていった。




 場所が決まって、する事と言えば、もちろん開発である。俺は、まず転移門設置に必要な面積の確保に乗り出した――とは、言ったものの、作業自体は簡単だ。

 理術で木を切り、地面を整地していくだけだ。後々、建物も作るつもりだけど、まずは門さえ置ければ良しとして、土を馴らしていく。そして転移門を設置する。すると。


「アル君、仕事が早いわねぇ」


 早速に、ラスティ先生が転移門を使って現れた。


「あれ、良く稼働し始めたことが分かりましたね」

「ええ、たまたま、見ていたら『スタンバイ』ランプが点灯しているのに気が付いてね。来ちゃった」


 うふふ、とハートでも付きそうな表情のラスティ先生。俺は、そうですか、と流して転移門の設置に移った。

 後ろから聞こえる、アル君、ノリが悪い~、とか言っている声を無視して。


 そうこうしていると、また転移門が動いたようだ。薄く光る転移門。その門の中から現れたのは――シェールだった。


「こんなところにいたのね、アル兄さん。お爺様が探していたわよ」


 短く告げるシェール。辺りを見回したかと思うと、再び転移門の中へと消えていった。

 ただ、それだけを告げに来たようだった。


「急ぎの用事かな?」


 なら急がないとな、と俺はすぐに転移門をくぐった。慌てて追いかけてきたラスティ先生と共に。

 ラークレインの城へと戻った俺は、すぐに爺様の書斎を訪ねる。すると、例によってショーザさんが先に来ていた。


「まぁ、入れ。ラスティ先生も一緒にどうぞ」


 招き入れられた俺とラスティ先生。二人がお茶を一口飲んだところで爺様が口を開いた。


「転移理術でここと王都の屋敷を繋ぐことについてだが、先ずは王家に伺いを立ててからが良いだろうという話になった」

「そうですか」

「うむ、驚かないのだな」

「いや、予想の範囲内ですから」


 防犯面から考えて、当然の流れだった。頷く俺に何が気に入らないのか、不機嫌そうな顔をする爺様。ならば、とものすごいどや顔になって口を開いた。


「夏休みを利用してビルやシェール達も一緒に王都に行くという話はどうだ⁉」


 爺様なりに考え抜いた案だったのだろう。だが、転移理術でいつでも王都に行けるようになった俺からしたら、なんてことはない話だった。むしろ、俺の転移理術ありきの話だろうと考えてしまう。そもそもシェールと行きたいって前に話していたし……結果。


「そうですか。まぁ、ビルやシェールも王都見たいでしょうからいいんじゃないですか?」


 そっけない返事となってしまった。


「くそ。駄目か。アルよ、ちょっとは爺さんに優しくしてくれんか?」

「え⁉ 驚いたほうが良かったですか。でも、王都はもう何時でも行けますし――その辺りは、ビルだけで満足してください」

「くっ、ビルだけか。シェールも――駄目か……」


 おそらく、シェールに告げた後の返事を想像してしまったのだろう、項垂れる爺様。そんな爺様に、ショーザさんが声を掛けた。


「まぁまぁ、エクスト様。転移理術を使えるアル君にとっては王都も憧れの存在では無いってことですよ。それよりも、他に言うことがあったでしょう?」

「ん? なんだっけか……」


 首を傾げる爺様に、ショーザさんが、ごにょごにょと耳打ちする。すると、爺様は、そうだった! と再びどや顔へ戻って告げた。


「喜べ。商会店舗の準備が出来たぞ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る