第32話3.32 運用へ向けての検討に入りました
ショーザさんがやって来たのは30分ほど後だった。
「いや、遅くなりました」
相変わらずの胡散臭い笑顔で礼をするショーザさん。ホリーメイド長の勧めに従い席に着いた。
「急に呼んですまんな」
「いえ、大丈夫ですよ。これも契約の内です」
社交辞令的な話の後、ショーザさんが本題を切り出した。
「これだけのメンツを見ると、あれですか? 以前アル君が言っていた――転移理術の理具」
その言葉に頷く俺。だが。
「ショーザ殿、それだけではありません‼」
またしても叫ぶイーロス伯父さん。俺は爺様に目で確認してから、さっきの説明を聞いていない二人に話を始めた。
「なるほど。概ね分かりました」
腕を組み考え込みながらも理解を示すショーザさん。だが、爺様は混乱の極致にあるようだった。
「ショーザよ。お前、本当にわかったのか? 魔獣が理術? いや、人が魔術か? ともかく、これは我々の常識を根底から覆しかねない話だぞ。それをそんな簡単に……」
「エクスト様。お言葉ですが、アル君が持ってくる話ですよ? 常識など簡単に覆るに決まっているではないですか。いまさら何を言っているのですか」
アメリカ人のように両方の手のひらを上にして肩をすくめるショーザさん。胡散臭さを強調しているかのようだった。でも爺様には普通に通じたようで。
「それは、そうだが……」
つぶやいた後、項垂れてしまった。爺様、ショーザさんがいても刺激が強すぎたようだった。
その後はショーザさんの提案により、再び転移門の試運転を行うこととなった。理力結晶をセットして転移門を起動させる。そして門を行き来するショーザさん。爺様も胡乱げな表情のまま、転移門を体験していた。
「素晴らしいですな」
行き来だけではなく理力結晶のセットや起動や終了の動作まで体験したショーザさんが絶賛の声を上げる。その言葉に、イーロス伯父さんが大きく頷いている。
爺様だけは頭を抱えていたが、それはそれ、何となくいつものことなので気にせず話を続ける。
「次の問題は何処に設置するかということなのです」
門を眺め、うんうん頷いているショーザさんに声を掛ける。
「そうですね。先ずはこの城と、王都、紅龍爵家の屋敷とを繋げてはいかがでしょうか?」
俺と爺様に向けて話すショーザさん。爺様は、任せた、と短く告げるだけたった。俺も異存はないので、首肯を返す。
後は、俺とショーザさん、おまけのラスティ先生の3人で話を始めた。細かい運用の話など他の面々は興味がないようでどこかへ行ってしまったから。
いや、爺様ぐらいは聞いても良いと思う。けど領主様が細かい検討まで聞く必要が無いと言われればそんな気もして……大人しく爺様を見送った。
「それで本格運用についてどのように考えておられますか?」
「うーん、俺もまだ決めかねているけど、どこかに中継地点を設けるのはどうかなと思っている」
「なるほど、中継地点ですか。確かに、都市ごとに門を設置していたら大変な数になりそうですからそれは良いと思います。ただ問題は、何処に中継地点を置くかですね」
「そう、それが目下一番の問題」
考え込んでしまう、俺とショーザさん、そこにラスティ先生がおずおずと口を開いた。
「ごめんなさい、アル君。私にはさっぱり分からないのだけど?」
悲し気な表情のラスティ先生に俺は一から説明することにした。話を整理する意味も込めて。
今回設置を目指す転移門、理力を節約するために改造した結果、どこかにドアみたいに行き先を指定できない。ゆえに二つの地点、例えば王都とラークレインを繋げるためには、一対で門が必要となる。だが、ここでさらにもう一つの地点、例えばロックハンド領を繋げるとする。すると、王都とラークレイン、ラークレインとロックハンド領を繋げることで行き来が可能となる。
だが、もしロックハンド領が王都へ直接行きたいと言い出したとしたら――いや行きたいだろうから――さらにもう一つ門が必要となる。
結果三地点で三対の門が必要となる。
こうやってすべての地点を繋げていくと――
二地点で一対、三地点で三対、四地点で六対、五地点で十対、六地点で一五対、七地点で二一対……ととんでもない数の門が必要になってくる。もっとも全てを繋げる必要も無いのだが。
さらに、王都など大都市には、希望する地点が膨大になると予測される。どこからでも都会にいける。利便性は最高だが、それはすなわち、どこからでも攻めてこれらるということに他ならない。
これらの問題を解消するのが、中継地点構想だった。地球で言うところのハブ空港である。
王都と中継地点。
中継地点とラークレイン。
中継地点とロックハンド領。
こうすることで、三地点で三対、四地点でも四対……で対応が可能である。防犯上も、ワンクッション置くことで敵に突然なだれ込まれることもなくなる。
中継地点の防犯には注力が必要だが……。
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