第31話3.31 皆に体験してもらう事にしました


 しばらくして、俺が転移門を終了させていると建物内部から飛び出してくる影が目に入る。


「アルー! 今度はなんだー! 俺にも見せろー!」


 言わずと知れた理術バカのイーロス伯父さんだった。


「これは、何だ? どうすれば動く? 何が出来る?」


 転移門を触ったりくぐったりしながら、矢継ぎ早に放たれる問い。

 

「イーロス伯父さん。落ち着いてください。今お見せしますから」

 

 俺は、伯父さんを一旦転移門から離れさせて再起動した。そして、三度行き来する俺。イーロス伯父さんも数えきれないほど行き来していたと思ったら――突然、俺の方へと掛けてきた。


「アル。これはなんだ」


 これまでにないくらい鬼気迫った顔でイーロス伯父さんが俺の肩を掴む。


「えっと見た通り、転移理術の理具ですが……」


 俺は質問の真意が分からず見たままの答えを返す。そこに、イーロス伯父さん、ぐわっと目を開いて叫んだ。


「違う!! こいつの動力は何だと聞いている!!」


 あまりの剣幕に若干怯んでいた俺だけど、伯父さんの言葉を聞いて安堵した。


「あ~、そっちですか。それは、これですよ」


 収納空間から理力結晶を取り出し俺はイーロス伯父さんへと差し出す。伯父さんは、わなわなと震えながら理力結晶を受け取っていた。


「これが理術の元……」


 ポツリとつぶやき黙り込んでしまうイーロス伯父さん。しばらく時間をおいてから


「これの原理を教えてくれ――‼」


 また叫びだした。


「頼む。どんなことでもするから……」


 俺の袖を掴んで半泣きで頼んでくるイーロス伯父さん。ドン引きしていると、違う声も届いた。


「アル兄さん、私にも教えてもらえるかしら?」


 声は普段通りのクールなシェールだった。だが俺が顔を向けると――般若でも居そうな雰囲気を漂わせるシェール。知識欲に火が付いたような雰囲気だった。


「分かった。教える。教えるから落ち着いて……」


 声を震わせる俺に、シェールは――般若の雰囲気のまま――ニコリと笑みを浮かべた。


「そう、なら場所を変えましょう」


 くるりと向きを変え歩き出すシェール。どうやら着いて来いという事らしかった。

 その後、シェールの後ろを着いて行く俺は、あるメロディーを思い出していた。売られていく牛の心情を表すような、あの悲し気なメロディーを。


 そして、たどり着いた応接室。俺、シェール、イーロス伯父さんだけでなく、サクラ、ラスティ先生、サーヤも来ていた。

 全員でテーブルを囲み席に着く。すると即座に出されるお茶とお菓子。それぞれに一服していると、シェールがゆっくりと口を開いた。


「そろそろ教えてもらえるかしら?」


 有無を言わせぬ態度のシェール。イーロス伯父さんも期待に満ちた目で見てくる。俺は手にしているカップを置いて説明を始めた。


 転移理術には高い理力量が必要となるので、他のエネルギー源を求めたこと。その中で、理力結晶をサクラの知り合い――真龍たちのことをそう説明している――から教えてもらったこと。そして最後に、理力結晶の材料は魔獣からとれる魔石であることを順に説明した。


「アル兄さん、なぜこうも世界の常識に喧嘩を吹っかけるのかしら……」

「魔石が人工理力に繋がるなんて……」

「魔力と理力が同じもの。それなら森人族の術も……」


 つぶやき声は、それぞれシェール、イーロス伯父さん、ラスティ先生だ。だがそれ以降、3人とも言葉は続かず、ただサーヤとサクラの、


「アル兄様、すごいね――」

「いや、アルはただ聞いてきただけ――」


 という会話だけが耳に届いた。

 サーヤとサクラの会話も終わり、訪れた沈黙を破ったのは外からの爺様の声だった。


「おい、あの外の物はなんだ?」


 声が聞こえたかと思うと、ノックも無く開かれる扉。そして爺様は首を傾げた。


「なんだ? 雁首揃えて何か問題でもあったのか?」


 どうやら、黙り込んでいる俺たちが会議で行き詰ったように見えたらしい。俺が、違います、と言おうと思ったら。先に。


「父さん‼ アルが、とんでもない物を作り出しました‼」


 またしても叫びだすイーロス伯父さん。爺様ですら、一歩下がらせるほどの迫力だった。

 

「お、おう、アルは大体とんでもないけどな」

 

 と返しているから、まだ余裕はあるようだけど。それでも、その後の。


「いえ、これまでとは桁が違います。何しろ、うっ、長年の、ううっ、私の研究の、うううっ、答えを持ってきたのですから」


 感極まる! という言葉が最も似合いそうな表情のイーロス伯父さんに詰め寄られる爺様。


「イーロス、分かった、分かったからちょっと落ち着け」


 言いつつ、俺の方へと逃げて来ていた。


「アルよ。今度は何をした。イーロスが泣いているぞ。まったく」

「すみません。図らずもイーロス伯父さんが長年研究して作れなかった物を持ってきてしまったようです」


 俺は頭を下げつつ、内心で本当にイーロス伯父さんを泣かすつもりなどないんです。ただ俺の目的に沿って動いているだけなんです。確かに、イーロス伯父さんとした人工理力の話が全く影響を与えていないかと言えば嘘になるけど、などと考えていた。


 そんな内心を知ってか知らずか、ため息をつきながら近くの空いた椅子へと座る爺様。

 即座にホリーメイド長が用意したお茶を一口すすってから口を開いた。


「まぁ、いい。悪い話ではないという事だな。で、その話は俺も聞いたほうが良いのか?」

「もちろんです。何なら今から――」


 即座に返す俺。だがそこに食い気味で違う声がした。


「旦那様。おひとりでお聞きになるのはお辞めになられた方が良いかと……」


 皆にお茶を注いで回っていたホリーメイド長だった。


「そんなにやばいのか?」


 訝しげな目線をホリーメイド長へ送る爺様。こくりと頷くホリーメイド長を見て、またため息をついた。


「分かった。ショーザを呼んでくれ」


 椅子に身体を投げ出し、名を出す爺様。ホリーメイド長はすぐに部屋を出ていった。


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