第30話3.30 エネルギー問題が解決しました


「良いかの?」


 項垂れる俺の気持ちなど気にもせず問いかけてくる長老。俺が頷くとすぐに姿を消した。転移で部屋へと戻ったのだと思う。

 そんな中、1人になった俺はというと、収納空間から大量の魔獣の死体を取り出していた。

 これは、これまでクアルレンとして狩った魔獣だ。本来なら即座に売る所なのだけど、騒ぎになる事が分かり切っていたために躊躇した魔獣たちだ。

 誰も到達できないような生息地ゆえに。また、その強さゆえに。

 

 俺は、その貴重な魔獣たちから魔石だけを取り出して、理力結晶作成ドラゴンへと与えていく。すると排便――いや、生み出される理力結晶。その作業を収納空間から魔石が無くなるまで続けた。


 数時間後。

 俺は再び建屋へと戻り、長老の元を訪れていた。とは言っても、今いるのは初めて訪れた部屋ではなく、よくサクラと話をしている会議室のような部屋だ。

 実際には、よくお茶やお菓子で一服入れているので、喫茶スペースという方がしっくりくる部屋だが。そんな部屋で、いつの間にか来ていたサクラが出してくれたお茶とお菓子を戴きながら話をしている。


「長老、生み出される理力結晶の大きさがまちまちなのには意味があるのですか?」

「意味はあるの。魔石によって濃度が異なっておっての、結晶化出来る大きさに限界があるでの。その限界値で吐き出すようになっておるの」


 なるほど。大きさでなく濃度か。それで小さい魔石からでも大きな理力結晶が出来るのか。それなら。


「理力結晶から理力を取り出すとどうなりますか?」

「結晶が跡形も無くなくなるの。あれは、魔石から不純物を取り除いたエネルギーを結晶化したものゆえにの」


 へぇ~。消えるのか。ごみが出なくて便利な気もするけど、使った量が分からないのは注意が必要な気がする。次は。


「理力結晶から理力を取り出す資料は情報空間で見つけたのですけど、動作サンプルはありますか?」

「ある意味、あのドラゴンが結晶時に出る余剰理力で動いておるからサンプルと言えばサンプルなのだがの。あれはちと大仰すぎるか……ならばこれかの」


 言いつつ長老が、自らの収納空間から出してきたのは、1mほどの人形だった。

 人形を立たせながらの長老の話によると、この人形、理力結晶で動くゴーレムであるということだった。


 俺はゴーレムを手に修行空間へと移動する。この修行空間への移動、特に時間が切羽詰まっているわけでは無いのだけど、なぜかしてしまう行動だった。きっと小さいころからの習慣となっているのだろう。と言う、どうでもいい思いを頭の隅へ追いやってから、合わせて提示された資料を読み込んでいく。そこには。


――薪として使うために切った木で作った人形の胸、人間でいうところの心臓辺りに、理力結晶を入れられる穴を開け、付与術を掛けた物。

――理力結晶を入れて、理力を込めてやると動く。

――込められた理力から主人を決めて、その人の命令を聞く。

――歩くや座るなどの基本動作は既に登録されており、命令すれば動かせることが可能。

――追加で作業の命令も可能で、何度も作業経験を積ませるとAIのように学習することが可能。


 このような事が書いてあった。中々高性能なゴーレムだ。


 このゴーレムの性能に、俺は思わず量産したい欲求に駆られてしまう。だが、今はそれよりも先にする事がある。もちろん転移理具の改良をする事だ。

 そう思い直し、後ろ髪をひかれながらも俺は、理力結晶から理力を取り出して付与術を起動する部分を読み解いていく。

 

「え⁉ 何してるのここ? ああ、理力結晶のサイズを確認しているのか」

 とか

「おお! なるほど。ここの術式が肝だな」

 などと一人つぶやきながら。


 そして十数時間――修行空間内の時間。実時間で数分――後。俺は転移理具改め転移門の開発を完了していた。


「ふぅ~、出来た」


 俺が一息ついていると、サクラがペタペタ触りながら門を覗き込んでいた。


「へぇ。これで完成なん」

「ああ、完成だ。後は、どこかに設置してテストだな」


 対で建てられた転移門を見上げながら俺は、設置場所について思案していた。


「どこでするん?」


 サクラも同じことを思っていたようで、首を少し傾げている。そんなサクラを眺めながら俺は。


「とりあえず、手近なところでするか」


 とラークレインの城へと帰った。


 城の庭に数メートルほど離して門を設置する。そして、理力結晶をセットして――起動。俺とサクラが、その門を何度もくぐって、問題なく行き来出来る事を確認する。最後に転移門の動作終了の確認をしているところで声がした。


「アル君、サクラさん、ただいま」

「アル兄さん、サクラさん、帰りました」

「アル兄様、サクラちゃん、ただいま戻りました」


 ラスティ先生、シェール、サーヤの3人だった。俺が振り向くと手を振りながら掛けてくるサーヤ。尻尾をぶんぶん振りながら抱き着かんばかりに近づいて聞いてきた。


「これ何ですか? 新しい理具ですか? アル兄様が作られたのですか?」


 目がキラキラ輝いている。ラスティ先生も、近づいてくるスピードはゆっくりだが


「『墨いらずペン』と『消しペン』に続いて、今度は何かな? 楽しみだ」


 物凄く期待しているようだ。

 シェールだけは訝し気に


「また何やらかすつもり?」


 と口にはしているが、立ち去らないことから興味はある事が分かる。


 俺は再度、転移門を起動させ、実演して見せる。すると3人も転移門を行ったり来たりして、三者三葉の反応を示した。


「わぁ! すごい!」


 無邪気に喜ぶサーヤ。


「へぇ、大型の転移理具とは、すごいね」


 しきりに感心するラスティ先生。


「アル兄さん……」


 額に手を当てて考え込むシェール。

 俺は彼女たちをただ眺めていた。


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