第25話3.25 必要なものは揃ったけど、問題は残りました
「申し訳ありません。慣れないもので……」
「でーじょぶだー。ば、ば、ば」
多分、笑っているであろうカメリアさん。俺も、愛想笑いを返しながら一番聞きたいことを聞いた。
「修行か何かですか?」
「ば?」
「カースビーに囲まれて生活していらっしゃるようですし、精神を鍛えておられるのかと?」
「……ぢがうだ」
首を横に振ったカメリアさんが、ゆ~っくりお話ししてくれた。
「えぇっと…………すみません、ラスティ先生お願いします」
「分かったわよ。これも貸しね。さっき変なこと考えたのも含めて!」
「はいぃ」
ちょっと思い浮かべただけなのに……年齢のことは過剰に気にしてるからなぁ、サクラみたいに大らかに、とちらっと思ったらいけなかった。
「アルぅ? あかんでぇ⁉」
「はいぃぃ」
サクラにも借りが出来ました。なぜか。
「――まとめると亀甲族であるカメリアさんの皮膚にはカースビーの針は刺さらず、何の問題もないらしいわ」
「マジか、皮膚が硬いだけで防げるのか。ますます呪いじゃなさそうだな」
「達人じゃ無かった……」
「それでも、これだけ囲まれたら嫌気がさしそうなのに、随分とのんびりした性格なのね」
俺が驚いている横で落ち込むビル、その横ではシェールが呆れている。
さらに、その横でサクラが首を傾げていた。
「それより問題は、なんでカースビーがカメリアさんの小屋を占拠してるかってことちゃう?」
「……そうだね。カメリアさん、カースビーが来た理由分かりますか?」
「んだぁ――」
またしてもゆ~っくり話すカメリアさん。俺はラスティ先生の翻訳を聞いていた。
「――椿油の臭いが原因じゃないかって――小屋の地下に貯めてる油の匂いが――花の匂いに似てるのではないかって――カースビー、椿の花から沢山蜜取って――小屋の屋根裏に作った巣にため込んでるらしいわ――そして垂れてくるハチミツは甕で集めてるって」
「それってつまり……あの小屋の地下には油があって屋根裏にはハチミツがあるってことですか? カモがネギ背負ってる、みたいな感じで?」
「は? カモは鋭い嘴で人の頭を貫通する攻撃してくる魔獣だからネギ背負ってても怖くて近づけないけど??」
こっちのカモ怖いわ! 俺が内心で突っ込んでる間に話は進んだ。
「椿油とハチミツ、欲しい物が揃ってるってことみたいね」
「アル、良かったやん。後はカースビー倒すだけやな」
「やった! 戦いだ‼‼」
「むむ!」
手を叩いて喜ぶサクラ。そこの声を聞いて剣を抜いてぶんぶんと振り回すビルと準備運動を始めるユーヤ兄。
そんな中、俺はというと、悩んでいた。
「倒さないとだめかな……」
「え⁉ 戦わないの!」
「ん!」
悪戯して、ご飯無し! って言われた時と同じ顔をするビルとユーヤ兄。シェールが肩をすくめた。
「ビル兄さんには難しいかもしれないけど、アル兄さんの立場で考えないと」
「シェール、どういうこと? ちゃんと言ってくれないと分からない」
「はぁ。アル兄さんとしては、カースビーから定期的にハチミツを取れないかを考えているのよ」
「でも、魔獣だぞ?」
ため息交じりのシェールの言葉を聞いてもビルは、今一つ理解していないのか微妙な顔をしている。いや、一般的にはビルの考えが普通かもしれない。
でも、攻撃はちょっと待って欲しい、と俺は内心で苦笑しながらカメリアさんに聞いた。
「相談です。カースビーを駆除せずに済ませられるかどうかは領主様と相談が必要ですが、とりあえずこのままハチミツを取ってもらうことは可能でしょうか? もちろん高値で買いますから」
「……いいだぞー」
ゆっくり頷くカメリアさん。言っておいてなんだが、ちょっと心配になった俺は再度聞いた。
「本当に、いいんですか? カースビーと共存ですよ? もし、嫌だというなら、ハチの住んでいない家、代わりに作りますけど?」
「んーー、いえばいらねだが……あぶら、じぼるべやがぼじいだ――」
「え?」
まだ何か言っているが、ちょっと理解できなかった俺がラスティ先生の顔を見ると教えてくれた。
「ああ、作業場所の上にハチが巣を作っているのですね。だから新しい作業場所が欲しいと。分かりました」
どうやらハチが出ても椿油も作っているようだった。俺は、そちらも買うと告げる。
「ば、ば、ば、がっでぐれるびとがいなぐで、あまっでるがら、いぐらでももっでいくど、いいだぞー」
にごやが、じゃない、にこやかに笑うカメリアさんへ俺は右手を差し出した。
俺の手を見て少し首を傾げていたカメリアさんだったが、しばらくして気付いたのか手を握って来た。
売買契約の成立である。問題は残っているが。
「……んだば、どっでぐる」
踵を返して小屋へと帰っていくカメリアさん。俺も付いて行こうとしたら、ラスティ先生に引っ張られた。
「アル君、危ないわよ⁉」
「大丈夫ですよ。刺されなければ。カメリアさんも言ってたじゃないですか」
「でも、小さいハチなのよ? 防具の隙間からでも入ってくるぐらいの」
「分かってます。だから防具に頼るのではなく身体強化理術で体の表面を強化することにしました。少しは怖いので結構強めに。今なら
名前を出されたからか試そうかと剣を抜くビル。
止めろ! 刺さらないけど周りが迷惑だ! 俺は手で制してカメリアさんを追いかけた。
夜、俺たちは実家の屋敷に帰ってハチミツの試食会を開いていた。
「へぇ。カースビーのハチミツかぁ。流石だねぇ。果物にちょっと付けただけで別の食べ物みたいだ」
「ええ、父さん。カメリアさんが上手いこと垂れてくる蜜を集めてくれたんです」
子供のころから食べている味気ない果物に少し垂らすだけで王都で売っている菓子と変わらない甘味を出してくれる高級ハチミツ。ルーホール町はもちろんのこと領都ラークレインで売っているもですら比較にならない味だった。
「美味かったよ、アル。ありがとう」
「どういたしまして」
「……しかし、噂に聞くカースビーの呪いが皮膚を硬くしただけで効かなくなるとは、驚きの発見だな」
果物の無くなった皿を眺めながらつぶやく父さん。俺は自分の考えを述べた。
「
「まぁ、回復理術が効かないって言われると怖いだろうから、気持ちは分かるよ。でも、それもデマなんだろ?」
「そこについては確証がありません。仮説の段階です」
「そっかー、となると、厳しいかもなぁ」
「何が、ですか?」
「カースビーを生かしておくことがさ」
その言葉で父さんが俺の企みの全てを察していると理解した。
俺がハチミツの試食会を開いて父さんの心証を良くしようと企て実行していることを。
「……どれぐらいなら待ってもらえますか?」
「そうだねぇ……ハチ魔獣の駆除依頼は、もう出てるから、それを受けた人が依頼を達成するまでかなぁ」
「それって待ったなしでは?」
「そんなことないよ。
なるほど、受ける
でも長い時間放置して通りすがりの人が死ぬのも嫌だな。
なるべく早く解決する方法を考えないと、と思いながら父さんに礼を言った。
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