第22話3.22 久々に帰ってきました


 俺は兄弟に従者にサクラまで含めてルーホール町の屋敷の前に転移した。


「ただいま~」

「アル様! ビル様にシェール様まで」


 驚く警備兵長のエミリオさん。その後ろでは警備兵のウワッタさんが屋敷へ向けて駆け出していた。


「変わんねぇボロさだなぁ~」

「ビル兄さん、数か月で変わるわけないでしょ?」


 屋敷へ向けて歩いているとビルとシェールの他愛無い会話が聞こえてくる中、俺は思っていた。


――ラークレインの城を見た後だと余計にボロく見えるな


 貧困街の孤児院よりましだが、それでも崩れそうな壁、雨漏りしそうな屋根、すぐに直したい! いや、ハチミツ取りに来たんだっけ。などと考え込んでいるその時、屋敷の扉が勢いよく開かれた。


「帰って来たって本当なの!」


 母さんだった。


「ただいま」

「お帰り!」

「帰った~」

「お帰り~!」

「ただいま帰りました」

「お帰りなさい!」


 俺、ビル、シェールを順番に抱きしめていく母さん。気持ちは分かるけど、ちょっと鬱陶しかった。現に、ビルには手で押しのけられているし。

 そこに、父さんも顔を出した。


「おお、お帰り。夏休みを使っての帰省かな。嬉しいけど、大変じゃなかったかい?」

「いや、大丈夫。転移理術で一発だから」

「そういえば、そうだったな。常識が狂ってくるな……」


 苦笑しながら頭を掻く父さん。とりあえず入って休みなさい、と懐かしい質素な食堂へと入っていった。


 食堂には、いつの間にかワーグさんとローネさんも顔を出していた。ウワッタさんが伝えに行ったようだ。

 久々に親子で談笑を繰り広げる中、俺は父さんとラスティ先生とサクラで話をしていた。


「それで、『ドラゴンの寝返り』は大丈夫だったのか? 鳥便で結果だけは連絡が来たのだが、追加連絡が来なくてだな」

「それなら大丈夫です。外壁の外で食い止めましたから大きな被害無く終わりました」

「魔獣がラークレイン一直線に走ってきとったからなぁ」

「そうだね。それもあるね。近くの村も農地が少し荒らされたぐらいで、人的被害はゼロだって言ってたな」

「ビル君もシェールちゃんもユーヤ君もサーヤちゃんも頑張ってたからねぇ」

「そうか、アイツらまで駆り出されたのか……無事でよかった……」


 大きく息を吐く父さん。俺は少し疑問に思った。


「本当に詳細は聞いていないのですね」

「どういうことだ?」

「ビル君が火竜サラマンダーに止めを刺して勇者と呼ばれていることとか噂でも聞いてない?」

「ラスティさん本当ですか⁉……勇者ってビルのことだったのか⁉ てっきりアルが戦ったんだと…………」


 ビルの方を見て目を見開く父さん。ラスティ先生が戦いのあらましを説明してくれた。


「シェールが賢者でユーヤ君が守護拳聖でサーヤちゃんが聖女……そうか、それで納得がいったよ……」


 肩を落とす父さんの説明によると、どうやら全て俺がやったことだと思っていたようだ。


「いや、男で聖女は無いでしょ⁉」

「そこはラスティさんと混同したんだと思ったんだ。現場はかなり混乱していたという話だし、ここまでやってきた商人の話はみんなバラバラでね」


 ははは、と笑う父さん。俺が肩を落としていると、手で口を押えて笑いを堪えている顔があった。


「アルが聖女…………ぷっ、あかん、耐えられへん、ぷぷぷぷぷ」

「おい! 笑うところじゃないだろ⁉」


 俺の突っ込みを聞いても笑い続けるサクラ。そこにラスティ先生の声が届いた。


「あら、アル君なら女装しても似合うと思うわよ。今度着てみる?」

「いや、着ませんよ⁉」

「残念ねぇ~」


 ニヤニヤ顔のラスティ先生。


――いや、絶対に着ませんからね!


 俺は心に誓った後、話題を変えにいった。

 

「父さんは、ラークレインにつながる新しい流通経路が出来たことを知っていますか?」

「ん? 何の話だ」


 首を傾げる父さん。本当に何も知らないようだった。


――おいおい爺様、バーグ属領にあまり関係ないと思って何も連絡していないな


 そう思った俺はハーミル伯爵やゲトイース碧龍爵とのいざこざを報告することにした。


「――と言う訳で今、流通ルートが大きく変わっています。後、今後も何らかの問題が発生すると思います。気を付けてください」

「おいおいおいおい、親父め、そんな大事になってるのに何で連絡してこないんだ!」

「まぁ、エクスト君だから」


 ラスティ先生の言葉を聞いて父さんは大きくため息をついた。


「分かった。他には無いか?」

「他かぁ……」


 何かあったっけ? と考え込んでいると、いつの間にか真顔に戻ったサクラが俺の袖を引っ張った。


「ん?」

「油のこと聞かんでええの?」

「ああ、そっちね」


 ラークレインで起こったことについてだけ考えていたら、今日来た理由をすっかり忘れていた。


「えっと、この辺りで椿油作ってるって聞いたんだけど?」

「ああ、カメリアさんとこだね。馬で一時間ぐらいのところだけど……」


 なんだか尻すぼみな言葉を不審がっていると父さんは頭を掻きながら続けた。


「まだ、やってるかなぁ?」

「え?」

「いや、前に噂で聞いたんだけど最近、椿の花目当てに森の奥からハチが飛んでくるようになったらしくて。まぁそれ以前にバーグ属領では植物油買うほど裕福な家ほとんど無くて、輸送も出来ないし……」


 そこまで聞いて俺は分かってしまった。油は簡単には手に入らないと。でも。


――椿油と椿ハチミツきっと組み合わせればいい物が出来る!


 物は考えようと思い直した。

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