第11話3.11 貧困街は思っていたよりも平和そうです
貧困街の中は静かだった。建物の中に気配は感じられるのだけど、視界には人っ子一人見当たらない。かなり不気味だ。
そんな中を二人で歩いて行く。すると、少し開けた場所に出て――数人の男達に行く手を阻まれた。
「坊主に嬢ちゃん、ここはお前らみたいなのが来る場所じゃないぜ」
みすぼらしい恰好をした男たち。その男たちのリーダーなのだろう、タヌキ耳を持つ獣人が凄んでくる。
「そうだぜ。とっとと帰りな!」
「「そうだ」」
合わせるように周りの男達もまくしたてる。だが、何というか、今一つ迫力がない。なんでだろう? と思っていると、業を煮やしたのだろうタヌキ耳のリーダーが、眉根を寄せながらさらに凄んできた。
「あ⁉ 聞いていんのか!」
その姿を見て、俺は迫力がない理由に気が付いた。タヌキ耳が、あまりに可愛いことに。
口では凄んでいるつもりなのだろうけど、話すたびにピクピク耳が動くのだ。おまけにタヌキ尻尾まで振られているのと合わさって来て――思わずほっこりしてしまう俺。
だが、そのほっこりした思いがいけなかった。顔に出ていたようだ。
「俺を、なめているのか⁉」
顔を真っ赤にして怒鳴ってくるタヌキ耳リーダー。鳩尾めがけて蹴りを放ってきた。
俺は、その放たれている蹴りを見ながら対応を考えていた。速度はなんというかまぁ、かなり遅い。
手加減しているのかもしれない。威力も普通の子供が転んでゲホゲホするぐらいだし。真龍たちに散々に鍛えられた俺には何の痛痒も与えない蹴りだ。
だからといって、わざわざ受けてやる意味もない。避けよう、と決める。
でも、攻撃されているのに、ただ避けるだけでは芸がない、と思った俺は迫ってくる蹴りを避けてから、足を掬い上げてやる。すると。
ごっちーん
タヌキ耳リーダー、派手に転んで後頭部を地面に叩きつけていた。
「痛ったいぃぃぃぃ」
両手で頭の後ろを押さえて悶え苦しむタヌキ耳リーダー。見ている俺も思わず想像してしまって、後頭部を押さえたくなるほどの痛がり方だった。そんなリーダーの姿に、周りの男達もうろたえだす。
「り、リーダー。大丈夫ですか? だから、無理だとあれほど言ったのに……」
「本当に……」
「無茶するから……」
「弱いのだから……」
リーダーの周りに集まった男達から聞こえてくる言葉に、俺はいたたまれなくなった。どうやら手加減していたのではなく、ただただ弱いだけのようだったから。その後も聞こえてくる男達の声に、だんだんと俺が悪い気がしてきてしまい、言ってしまった。
「回復理術かけましょうか?」
この言葉を聞いた男たちはギョッとした表情を浮かべた後――未だ悶え苦しむリーダーを囲んで、ひそひそと話しだした。
しばらくして。
さっき一番にリーダーの元に駆け寄っていた――恐らくサブリーダー的な――人が頭を下げてきた。
「因縁をつけて、申し訳ありませんでした」
その動きに合わせるように周りの男たちも、申し訳ありませんでした、と頭を下げる。俺が、そんな突然の行動に驚いているとサブリーダー的な人が話を続けた。
「その、貧困街に迷い込んだ方を追い返すのが目的で悪気はないのです。本当に申し訳ありません。その上で、大変申し上げにくいのですが、回復理術かけてほしいのです。ですが俺たち、その、お金を持っていませんので……」
話ながら段々と項垂れていくサブリーダー的な人。今回の行動は、貧困街以外の人と無用な軋轢を避けるための処世術の一つだったようだ。それなら手を出すなよ。と思わなくもない。けど、俺もタヌキ耳と尻尾に見惚れていた負い目もあり、俺もちょっとやりすぎたかと思ってきたこともあって、それならばと俺はある提案を返した。
「回復理術かけてあげますので、その代わりに、ここの取りまとめをしているっていう鬼人族の人に合わせてほしいです」
「え、元締めにですか⁉」
「元締めって呼ばれているのですか? ここの、貧困街の一番偉い人で良いですよ」
「それは、あっしたちでは約束はできません。ですが、このポンカさんなら……」
「分かっりました。治してから本人にお願いしますよ」
どうやらタヌキ耳リーダー――ポンカさん――はそこそこ偉い人みたいだった。全く、偉そうな感じはしなかったけど。でも、皆が俺たちをだましている雰囲気もないので、俺は即座に傷口修復理術を掛けてあげた。すると。
「あれ⁉ 痛くない」
「はい。こちらの坊ちゃんが、回復理術を掛けてくださいました」
「え、俺、金持ってないぞ⁉」
「はい。この坊ちゃん。元締めに合いたいそうで、取り次ぐことを条件に理術を……」
「え、ひょっとして元締めの関係者⁉ 俺、締められる⁉」
「はい。ですので、なるべく丁重に」
「え、分かった。すぐに連れていこう‼」
痛みから回復したポンカさん、俺が口出しする暇もなく――若干の勘違いを含んで――話は進み、無事に元締めの場所へと案内されることとなった。
貧困街の中を俺たちの存在など気にしないような速度で歩いたポンカさんは比較的綺麗――貧困街の中で比べれば――な建物へとずかずかと入って行った。
建物に入っていいのか躊躇して遅れていた俺たちの到着を待たずして。
そして最奥の部屋の扉をノックもせずに開いて言い放っていた。
「元締め!お知り合いをお連れしました」
「だから、てめぇは、いつもいつも‼ ノックぐらいしろって言っているだろう‼」
「え、申し訳ございません。急いでいたもので!」
「人を案内するのに何急いでいるってんだ、てめぇは」
「え、え、えーーー。すみませんでした」
扉の辺りでぺこぺこと頭を下げるポンカさん。やっぱり偉い人とは思えなかった。さらにはポンカさん、そのまま扉を閉めてしまう。すると。
「ポンカー‼ 客人はーー‼」
さらに飛んでくる怒号。体を直立させたポンカさん。大慌てで俺たちを呼び部屋へと押し入れた。
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