第5話3.5 ここ掘れワンワンってトンネル掘るのだけど
話し合いから数日後、爺様からトンネル掘削の許可が出た。
「マウントフォームのやつ、すぐに返事を返してきよった。ハーミルのやつは、相変わらずだが……」
俺がトンネルを掘る間、爺様もただ黙って待っている訳ではない。鳥便による書状のやり取りで状況の改善を模索する事になっていたのだ。
上手くは行っていないようだけど。
「あと、商会の許可も出したぞ。黒紅龍商会。アルなら商会長として、何の問題も無いだろうからな」
ニヤリと恐ろし気な笑顔を浮かべる爺様。俺は、褒められている気がしないな、と思いながらも、ありがとうございます、と頭を下げた。そして。
「では、行ってまいります」
と爺様の書斎を辞して、サクラとともにトンネル掘削の現地へ飛んだ。
ちなみに、サクラを連れて行ったのは、ただ、俺がこのあたりに来たことがなかったからだ。
地道に馬車移動でもよかったのだけど、そうすると泊りで来る必要があり、数少ないが授業を休む必要が出てくるだ。ついでに言うと早く作る方が嫌がらせしてきている相手へのインパクトも強いというのもある。
そう思うと授業の方がついでか? まぁ、どっちでもいい。ともかく早く目的地に着くよう、サクラに頭を下げたのだ。
サクラは数十キロぐらいであれば遠見理術で見て転移可能だから。俺は1キロぐらいが限界なのに……まだまだ、時空理術の実力が違っていた。
かくして、すぐに現地へと到着した俺とサクラは空を見上げていた。
「ほぇ~、えらい高い壁やなぁ~」
眼前で垂直そびえる壁、いや山を見ながらサクラが感嘆の声を上げる。その横にいる俺はというと、見たことのない絶景に言葉を失っていた。
数分後。
「こっから掘るん?」
山に手を当てて聞いてくるサクラ。俺は、気を取り直して、そう、と頷いて、理力を練り始めた。
練った理力で先ず行うのは地質調査だ。理力を波に変え、山に浸透させていく。波を操る光理術の応用だ。
すると返ってくる振動。その返ってきた振動――反射波――を分析して地質状況を調査する。
いわゆる地中レーダー探査の理術版だ。
その理術を使って、理力波の波長や強さを変え反射波の状況を確認していく。すると山の状況が分かってきた。
「これは、内部は溶岩が固まって出来た、柱状節理の一種だな」
「なんなんや、それ」
「まぁ、簡単に言うと、大昔火山が爆発して出来た岩だって事だ」
「ふ~ん」
聞いてきたから教えてあげたのに、興味なさそうな態度のサクラ。退屈なのだろう。だが、俺はトンネルを掘りに来たのだから、相手などしていられない。ゆえに。
「退屈なら帰ってもいいぞ」
と俺は調査を続けながら告げた。
ここに来るのに手伝いが必要だったから来てもらったけど、帰りは自分で転移可能だからと思ったけど、サクラの反応は悪かった。
「え~、帰らへんよ。アル一人にしたら、また悪い虫が出るかもしれへんから」
何だ? 悪い虫って? とちょっと思ったけど、今は忙しい。わざわざ聞くのも面倒だった。
「そうか、好きにするといい」
俺は、それだけ告げて調査に集中した。
「こちら側の表面は、普通の土4m30cm、そして内部は柱状節理が22m35cmで、反対側の表面が普通の土5m78cmか」
調査を終えて一人つぶやく。
この山幅で、高さが数百メートルもあるのだから、かなり歪な地形だ。この地で何が起こったのか調べたくなるが、今はそれどころではない。一日でも早くトンネルを通してあげないと、爺様が、また情けない顔をしかねないから。
そして再び理力を練り、俺はトンネルの大きさ――半径3mほどの半円――を描くように山へと理術を発動した。今、発動したのは、サクラお得意の空間断裂バリアの応用だ。結果、土も砂も岩も、もちろん柱状節理すらも関係なしに山とトンネルとなる部分を切り離すことが出来た。
続いて切り離された内部の全てを収納空間へと放り込んでいく――といっても、一度にすべてを行う訳にはいかない。突如すべてが無くなったら、崩落する危険があるのだから。
数十センチメートルずつ収納しながら様子を見る。
そして一メートルほど進んだら、今度は収納空間から、あらかじめ作っておいた半円状の鋼鉄製補強材を取り出しはめ込んでいく。
これらの工程、地球なら専用の機械や重機で掘っては、小さく切った鉄板を積んだり、セメントを吹き付けたりして進んでいくところだけど、理術がある世界なら一気に作業可能だ。もっとも、かなりの理力が必要なので普通の人には不可能だが。
その後も地道な作業を続けた俺は、日が沈む前に山の反対側へとたどり着くことが出来た。
「出来たんか?」
出来上がったトンネルを歩いて戻った俺に、サクラの声が届く。
「完成したよ!」
たった一人でトンネルを掘り上げ、やり遂げた感一杯の俺は、思わず笑みを浮かべてしまう。だがサクラには何の感慨もなかったようだ。
「ほな、帰ろか」
欠伸をかみ殺したような表情で手を出してくるサクラ。俺は浮かべた笑みを苦笑に変えながら頷き、転移理術を使おうと理力を練るサクラの腕を慌てて掴んだ。
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