第6話3.6 恒久策を提案します


「もうできただと!」


 ラークレインへと返った俺は、急ぎ爺様に報告を行った。


「はい、今しがた完成しました。」

「……」

「後は、近くの村から道を伸ばしたり、関所を作ったりすれば街道として使えるようになるかと」

「……」


 話をつづける俺だけど、爺様は最初に話したきり黙り込んだままだ。またしても刺激が強すぎたらしかった。


「あの、爺様? 聞いておられますか?」


 再度呼び掛けてようやく、目に光が戻ってきた。


「ああ、すまん。聞いている。大丈夫だ」


 頭を横に振る爺様。


「関所と街道整備の件だな。早急に取り掛かる。マウントフォームのやつとも連携して」


 その言葉に安心した俺、お願いします、と一言告げて爺様の書斎を辞した。


 数日後、授業を終えた俺は、再び爺様に呼び出された。ノックをして俺が、執務室へ入る。すると。


「やあ、アル君。お疲れさん」


 また、ショーザさんも来ていた。


「爺様、ショーザさん、こんにちは」


 挨拶をして、俺はソファーへと座る。すると爺様がどさりと布袋をテーブルの上へと置いた。


「トンネルの代金だ。他にも報酬を考えている。それについては決まり次第連絡する」


 どうやら作業報酬らしかった。

 

「多すぎませんか? 孫がちょっと手伝っただけでしょう?」


 袋の中身身を確認して俺は問う。何しろ金貨が100枚ぐらい入っていたのだから。さらには、追加報酬まであるらしい。明らかに、子供に渡すような額では無かった。

 そんな俺の疑問に答えたのは、ショーザさんだった。


「いえ、誰にもできない難工事を黒紅龍商会に依頼したのです。むしろ少ないぐらいですよ。アル君も、商会長なのですからきちんと報酬を受け取ってください。あのトンネルの価値を分かっているでしょう?」


 確かに、これからトンネルが生むであろう利益を考えたら金貨100枚など少ないと思う。だけど、ほんの数時間で出来てしまった工事だ。俺としては、報酬が多すぎる気がする。ならば、報酬に見合った働きをしなければと思い、俺は少し悪そうに見えるよう口角を上げて告げた。


「爺様、大変うれしいですけど、あのトンネルは、一時しのぎですよ? ハーミル伯爵が困るだけですから。どうせなら、大元であるゲトイース碧龍爵にぎゃふんと言わせたくないですか?」


 この言葉に驚きを通り越して、また情けない顔をする爺様。それとは対照的に悪そうな顔をするショーザさんが口を開いた。


「流石、アル君。既に次の手を考えてくるとは。素晴らしい。さあ、教えてください」


 テンションが上がってきたのだろう。だんだん声が大きくなるショーザさん。俺は、お茶で口を滑らかにしてから、策について話していった。


 しばらくして、話し終えた俺の前でショーザさんが頭を抱えていた。


「何という事を考えるのですか、アル君」


 ぼそりとつぶやくショーザさん。その後も、ブツブツと小さな声を出しながら考えこんでいる。爺様に至っては、放心状態だ。刺激が強すぎたらしい。

 というか爺様ってすぐ絶句したり放心したりしているけど領主として大丈夫なのかな? と心配してしまうと思っているとショーザさんから声が掛かった。


「本当に、そんなことが可能なのですか? 出来れば国の根底を覆しかねないことになりますけど」


 検討の結果、実効性は十分。だけど、実現性に難ありと判断したといったところのようだ。


「可能ですよ。いくつか問題は残っていますけど」


 ショーザさんの問いに、さっき説明した時と同じ言葉で返す。するとやはり考え込んでしまうショーザさん。はやり、ラークレインと王都を、いや友好都市を転移理術の理具で行き来可能にするという案は、早々には信じられないようだった。


「体験してみないことには、分かりませんよね」


 俺の確認に肯きを返すショーザさん。


「それでしたら、もう少し準備が整ってから再度お話しします」


 俺は話を打ち切った。


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