第3話3.3 通さないなら通らなければいいのです
「サクラ様がお越しになられました」
俺が一人感心していると、ノック音がしてメイドが告げる。そこに桃色の髪の少女が顔を出した。
「こんにちは、失礼します」
優雅に――ただ頭を下げているだけなのに――礼をするサクラ。
「どうぞどうぞアル君の隣に」
ショーザさんに勧められてソファーへと座った。
「まぁ、お茶でも一杯」
メイドが出したお茶を、何故か我が物顔で勧めるショーザさん。多分、時空理術のためにサクラに取り入りたい、とか思っているのだろう。だけど俺からしたら余計に胡散臭いから止めた方がいいと思ってしまう態度だった。
「それで、急に呼び出してなになん?」
綺麗な所作でお茶に口を付けてから俺の顔を見て問うてくるサクラに、事のあらましを説明した。
「ふーん、うちが紅龍爵様を王都へ連れて行けばええの?」
「ああ、もしくは俺でもいい。俺、王都へ一回も行った事ないから」
「ふ~ん」
うつむきがちに答えるサクラに、俺はもしかして? と問う。
「あれ、ひょっとして王都方面行った事ない?」
それだと、行けないな。何か他の手をと考え始めたところで。
「いや、いけるで。近くやけど……」
と小さな声が届いた。
なら、なんでそんなに複雑な顔をしているのと思うが、俺には、うまい事聞くことなどできるはずもなく。
再度お願いして。
「うん、そやね。アルと一緒なら……ええよ」
何とか了承を貰った。
「王都へは行けるのだな」
「はい、大丈夫です」
爺様が改めて尋ねてきたので、サクラを横目で見つつ答える。サクラも小さく頷いているので大丈夫だと思う。最悪、長老に頼むか、ハイヘフンから走れば時間はかかるけどたどり着けるだろうしと考えていると、ショーザさんの声が届いた。
「これで、喫緊の課題は解決でよさそうですな。そうすると、次はどうやって出入り禁止を解いてもらうかですが」
爺様と俺の顔を交互に見ていたショーザさん、
「まずはエクスト様、お考えをお聞かせください」
と爺様に振った。
「ごほん」
居住まいを正し、一つ咳ばらいをし、口を開いた爺様だが――
「すまん。何の案も出てこない」
だった。
またまた、ソファーからずり落ちそうになる俺。そんな俺をよそに爺様は続けた。
「いや、だってな。そもそも、ハーミルの所通れなくて、そんなに問題か? ……必要な物は、ほとんど自領で足りているし、足りないものも隣のロックハンド男爵領経由で入ってきているだろう? そのロックハンド男爵も出入り禁止とか言い出したら問題だけど、奴の性格上、あり得んしな」
顎に手をやり、言葉を選びながら話をする爺様。領主として、それなりに考えているようだった。
「なるほど。エクスト様の意見は了承しました。ですが、このままという訳にはいきません。多くの商人は、ハーミル伯爵領を経由する流通網を構築しているのですから。それに、私が言うのもなんですが、貴族としてのメンツというものもあるはずです。格下の貴族にやられっぱなしではすみませんよ」
「貴族のメンツか。はっきり言って全く興味はないが……ここで黙っていて反王家派が増えるのも困ったものだな」
「だからこその対策を……アル君お願いします」
爺様と話していたはずのショーザさん、唐突にこっちに振ってきた。いや、ここは、ショーザさんが案を出すべきところでしょ! と思うけど、一応、商人としての師匠というか、寄り親というか、お世話になっている人なので、あまり無碍にも出来ず、考えていたことを口にした。
「出入りを禁止なら、通らなければいいと思います」
怪訝な表情を浮かべる爺様。ショーザさんに至っては、話聞いてまいしたか? と何だか失礼な事を言って来る始末。俺は部屋に掛けられているハポン王国地図を見ながら告げた。
「通れないなら別の道を
「なるほど?」
同じように地図を見て頷くショーザさん。その横で爺様が首を傾げた。
「その道がないから困っているのだが?」
「まぁまぁ、エクスト様。アル君の話を聞きましょう。彼は道を作ると言っていますから」
「はい。作りましょう。紅龍爵領とマウントフォーム騎士爵領の間を横たわるヒーダ大山脈を削って!」
「⁉」
「なるほど、山を削ってトンネルを繋げればいいと?」
即座に理解を示したのは、やはりショーザさんだった。爺様は、怖い顔――多分考えこんでいるだけ――のまま微動だにしない。
「そうです。確か、ヒーダ大山脈にはありますよね。極端に狭まっているところが」
「はい、ありますよ。幅数十メートルと言われている箇所が。ですが、高さがねぇ。上部が霞んで見えないほどですよ? その高さを支えている山を削るなんて……」
とても無理だ。そう言いたげなショーザさん。だけど俺も、そんなことは分かっている。そして実現する方策も知っている。
かつて役所で道路拡張のためにトンネルを掘る計画が上がったから、工事業者に無理言って、他のトンネル掘削現場に足を運んで自分でも調べたのだから。結局、国の予算が付かず道路拡張は流れてしまったけど、あの時調べた知識だけは残っている。
「確かに普通に考えたら無理ですよね。でも大丈夫です。理術で掘りますし。崩れないように補強もします」
「理術で出来るのか? そんなこと。いや、アル君の理術がすごいことは分かっているけど。流石に規模が違うと思うのだけど」
それでも懐疑的なショーザさん。ならばと、爺様に意見を聞いた。
「作業はアル一人でやるのか? それならやってみればいい。マウントフォームには、鳥便で書状を飛ばしておくから。あの領は、山間部な上に狭くて特産品も無いから、領の発展に繋がる案件を断ることもないだろうしな。ただし、無理はするなよ」
時間を置いたからだろう、爺様は話を理解したようだった。すぐに対応してくれるそうだ。
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